犬種と健康

パグのかかりやすい病気と遺伝病|壊死性髄膜脳炎(パグ脳炎)と寿命・家系での備え

内容確認日 2026-09-04うちのこ家系図 読みもの

飼い主のそばで休むパグ。神経・呼吸・目にまつわる体質を家系で理解する
目次
  1. 1結論|神経・呼吸・目の3系統で名前が挙がる
  2. 2壊死性髄膜脳炎(NME・いわゆる「パグ脳炎」)
  3. 3呼吸|極度短頭種として挙げられる事実
  4. 4目|色素性角膜炎の報告
  5. 5膝・股関節・そのほかの体質
  6. 6寿命について言われていることと、家系で備える
  7. 7よくある質問
  8. 8まとめ|神経・呼吸・目、それぞれ資料での位置づけが違う

「『パグ脳炎』という言葉を聞いて不安です。遺伝する病気なのですか」——パグの飼い主から実際に寄せられた質問です。ただ、名前が挙がる体質はこの病気だけではありません。この記事では、原著論文・学術データベースOMIAの公開情報で確認できた事実だけを材料に、神経・呼吸・目という切り口で整理します。治療・手術・投薬・余命・治療費といった診療の話には立ち入りません。この犬種の成り立ちや性格のほうはパグの性格と特徴|歴史・暑さとの付き合い方と家系の話が扱っています。

結論|神経・呼吸・目の3系統で名前が挙がる

リビングの床に真横を向いて立ち、顔だけこちらへ向けるフォーンのパグと、少し離れて立つ女性

要点: パグは、原因が完全には解明されていないとされる神経の体質(壊死性髄膜脳炎)が研究段階として報告されているほか、極度短頭種としての呼吸の体質、色素性角膜炎という目の体質も、それぞれ別の資料で名前が挙がる犬種です。1つの病気に絞らず、複数の体質として紹介します。

名前がどの資料のどこに出てくるかを並べます。

  • 学術誌J Hered(Barberら, 2011)・学術データベースOMIA——壊死性髄膜脳炎(NME)の遺伝的リスクに関する研究で、パグを対象に複数の遺伝子領域が報告されている
  • 犬種を横断した英国の調査——「極度短頭種」に分類されている犬種のひとつ(分類の中身と数値は短頭種気道症候群とは
  • 学術誌JAVMA(Labelleら, 2013)——パグを対象にした調査で、色素性角膜炎という目の体質の頻度が報告されている

まず、研究の蓄積がもっとも厚い神経の体質から入ります。犬種をまたいで病名を並べた一覧のほうは犬の遺伝病一覧|代表的な病気と犬種別の傾向にあります。

壊死性髄膜脳炎(NME・いわゆる「パグ脳炎」)

スマートフォンを耳に当てて話しながら無地のノートに書き留める女性と、足元で伏せるフォーンのパグ

研究段階の体質について: このH2で扱う壊死性髄膜脳炎は、研究段階にある体質です。遺伝的な関わりが報告されている一方、単一の遺伝子で説明できる病気ではないとされ、有病率も断定できる段階ではありません。確認日: 2026-09-04。次回点検予定: 2026-12-04(3か月後)。

要点: 壊死性髄膜脳炎(NME)は、パグを含む一部の犬種で報告される神経の体質です。学術データベースOMIAでは、単一の遺伝子で説明できる病気ではなく、複数の要因が関わる(multifactorial)体質として分類されています。DLA(犬白血球抗原)クラスII領域を含む複数の遺伝子領域との関連が、複数の研究で報告されています。

「この病気は遺伝するのですか。両親犬のことを実家(お迎え元)に聞いたほうがいいですか」——まず、この体質そのものについて説明します。

学術データベースOMIAには、壊死性髄膜脳炎(necrotizing/necrotising meningoencephalitis)が、パグをはじめ複数の小型犬種で報告される中枢神経系の炎症性疾患として登録されています。この体質は「単一の遺伝子による病気ではない(Single-gene trait/disorder: no)」「遺伝形式:多因子性(Multifactorial)」に分類されており、パグ以外にもチワワ・マルチーズ・パピヨン・シーズー・ヨークシャー・テリアなど複数の小型犬種で報告があるとされています(OMIA:001470-9615)。

遺伝的な関わりについては、複数の研究が報告を重ねています。Barberら(2011)は、NMEを発症したパグ30頭と健康なパグ68頭を対象にした全ゲノム関連解析(GWAS)を行い、犬白血球抗原(DLA)クラスIIの領域を含む染色体12番の領域が、統計的に有意な関連を示したと報告しています。同論文は、この体質が「非メンデル遺伝(non-Mendelian inheritance)」を示す病気であるとも記しています(Barberら, J Hered 2011)。単一の遺伝子検査で「なる・ならない」が決まる体質ではない、という点は誤解されやすいポイントです。

疫学的な報告としては、Levineら(2008)が、NMEと診断されたパグ60頭と、他の脳の病気を持つ対照群のパグ14頭を比較した研究を発表しています。この研究では、NMEを発症したパグの発症時年齢の中央値は18か月(範囲4〜113か月)で、対照群に比べてメスの割合が高かった(60頭中40頭)と報告されています(Levineら, J Vet Intern Med 2008)。この記事では、症状の一覧や進行の経過には触れません。気になる様子があれば、自己判断せず獣医師に相談してください。

呼吸|極度短頭種として挙げられる事実

要点: パグは、犬種を横断した英国の調査で「極度短頭種」に分類されている犬種のひとつです。調査の方法・分類の全体像・報告されている数値と、暑さとの付き合い方は、犬種を横断した専用記事にまとめています。

パグは、犬種を横断した英国の調査で「極度短頭種(extreme brachycephalic)」に分類されている犬種のひとつです。調査の方法、分類の全体像、報告されているオッズ、そして暑い季節の過ごし方——これらはまとめて短頭種気道症候群とはに置いてあり、この記事では「極度短頭種として挙げられる事実」の紹介にとどめます。

目|色素性角膜炎の報告

顔を上げて飼い主のほうを見るフォーンのパグと、片膝をついて正面から見る男性

要点: 色素性角膜炎(角膜に色素が沈着する体質)は、パグ295頭を対象にした調査で、少なくとも片方の目に243頭(82.4%)で確認されたと報告されています。この記事では、症状の見分け方や治療には触れません。

「目に茶色い色がついてきました。この犬種で多いと聞きましたが、記録に残しておくべき変化ですか」——この疑問に関わる報告を紹介します。

Labelleら(2013)は、生後16週齢を超えるパグ295頭を対象に眼科検査を行い、少なくとも片方の目に色素性角膜炎(角膜に色素が沈着する状態)が確認された個体は243頭・82.4%だったと報告しています。多くは「ごく軽度」または「軽度」の程度だったともされています(Labelleら, JAVMA 2013)。同じ調査では、虹彩の一部が十分に発達していない「虹彩低形成」が295頭中72.1%、瞳孔膜の一部が残る「瞳孔膜遺残」が295頭中85.3%の個体で確認されたとも報告されています(同上)。

パグの目の体質については、別の調査研究(Packerら, 2015)で、英国の動物病院を受診した犬を対象にした調査の中で、角膜潰瘍(角膜の傷)と診断された犬の中でパグがもっとも多く含まれていた犬種だったとも報告されています(同調査でのパグの対象頭数32頭中12頭)。いずれも「体のつくりに由来する報告」としての紹介にとどめ、症状の見分け方や治療には触れません。目の色や見え方に変化を感じたら、自己判断せず獣医師に相談してください。

膝・股関節・そのほかの体質

要点: 膝蓋骨脱臼・股関節形成不全についても、別の資料でこの犬種の名前を見かけることがあります。ピルビン酸キナーゼ欠損症という血液の体質も、パグで報告される原因変異が特定されています。

膝蓋骨脱臼(膝のお皿がずれる状態)は犬の膝蓋骨脱臼とは、股関節形成不全の仕組みは犬の股関節形成不全|好発犬種と遺伝、家系で備える考え方、頭のかたちに関わる水頭症は犬の水頭症で、それぞれ犬種を横断して扱っています。

また、赤血球の中でエネルギーを作る酵素が働かないピルビン酸キナーゼ欠損症についても、学術データベースOMIAに、パグで報告される原因変異(PKLR遺伝子のミスセンス変異)が登録されています(Gultekinら, 2012・OMIA:000844-9615)。この記事では、名前の紹介にとどめます。

寿命について言われていることと、家系で備える

ラグに座って架空の血統書を両手で持って読む男性と、すぐ横で伏せるフォーンのパグ

要点: 『アニコム家庭どうぶつ白書2023』(2021年度データ)の犬種別一覧で、パグは12.8歳。家系で備えられることの中心は、両親犬・実家(お迎え元)の兄弟犬に神経・目まわりの記録がなかったかを確認しておくことです。

白書の犬種別一覧には、パグ12.8歳という数字が挙げられています。同じ集計の犬全体平均は14.2歳です。もとになっているのは、同社の保険契約を開始した犬(2008年4月〜2022年3月)の契約頭数と死亡解約の届け出から作られた生命表で、0歳時点の平均余命を平均寿命と呼んでいます。犬種の比較にのぼるのは契約頭数の多い上位40品種だけで、1犬種あたり何頭を数えたかは公表されていません。保険に加入した犬という限られた集団の集計値であって、うちの子ひとりひとりの寿命を決める数字ではありません。個体差や暮らし方によって変わる目安として読んでください。

神経の体質に立ち戻ると、家系で備えられることの中心は、両親犬・同じ実家(お迎え元)で生まれた兄弟犬に、神経症状や目の変化の記録がなかったかを確認しておくことです。この体質は単一の遺伝子検査で判定できるものではないので、手がかりは記録のほうにあります。両親犬をたどる出発点は血統書で、読み方は血統書の見方にまとめています。聞き取れたことは、その日のうちにうちの子の健康記録をつける(無料)で書き留めておくと、あとで振り返るときに役立ちます。

よくある質問

Q. パグ脳炎は遺伝しますか?

学術データベースOMIAでは、単一の遺伝子で説明できる病気ではなく、複数の要因が関わる体質として分類されています。遺伝的な関わりを示す研究報告はありますが、「遺伝する・しない」を断定できる段階ではありません。

Q. 検査は受けられますか?

この記事の執筆時点で確認できた資料では、単一の遺伝子検査でこの体質を判定する方法は確立されていません。遺伝子検査全般の一般論は犬の遺伝子検査ガイドにまとめています。

Q. 暑さに弱いと聞きました。本当ですか?

パグは犬種を横断した調査で「極度短頭種」に分類されている犬種のひとつです。暑さとの向き合い方は犬種をまたぐ話題なので、短頭種気道症候群とはにまとめています。

まとめ|神経・呼吸・目、それぞれ資料での位置づけが違う

  • 壊死性髄膜脳炎(NME)——研究段階の体質。単一の遺伝子ではなく複数の要因が関わるとされ、有病率は断定されていない
  • 呼吸——「極度短頭種」に分類されている(分類の中身は横断記事へ)
  • 目——色素性角膜炎が295頭中243頭(82.4%)で確認されたと報告されている
  • そのほか膝・股関節・水頭症・ピルビン酸キナーゼ欠損症も名前が挙がる体質
  • 平均寿命12.8歳(『アニコム家庭どうぶつ白書2023』2021年度)。保険に入っていた犬の集計

単一の遺伝子検査で答えが出ない体質だからこそ、両親犬と、同じ実家(お迎え元)の兄弟犬に何があったかという記録が効いてきます。家系図という形にしておきませんか。


本記事は参考情報です。壊死性髄膜脳炎(NME)は研究段階の体質で、ここに書いた内容は今後の研究で更新される可能性があります。うちの子の様子で気がかりなことは、かかりつけの獣医師にご相談ください。 記事中のデータは2026年9月4日に確認したものです。出典はPubMed収載の原著抄録、学術データベースOMIA、PLOS ONE、JKC公式サイト、アニコム損保『アニコム家庭どうぶつ白書2023』のPDF原本です。

出典・参考

  • Barber RM, Schatzberg SJ, Corneveaux JJ, et al. "Identification of risk loci for necrotizing meningoencephalitis in Pug dogs." J Hered 2011;102(Suppl 1):S40-46. (確認日 2026-09-04。NCBI eutils APIでPubMed抄録を取得し逐語照合) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21846746/
  • OMIA(University of Sydney)「OMIA:001470-9615: Meningoencephalitis in Canis lupus familiaris (dog)」(旧称 necrotising meningoencephalitis を包含・現題) (確認日 2026-09-04。HTMLを取得しgrepで逐語照合) https://omia.org/OMIA001470/9615/
  • Levine JM, Fosgate GT, Porter B, Schatzberg SJ, Greer K. "Epidemiology of necrotizing meningoencephalitis in Pug dogs." J Vet Intern Med 2008;22(4):961-968. (確認日 2026-09-04。NCBI eutils APIでPubMed抄録を取得し逐語照合) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18647157/
  • Labelle AL, Dresser CB, Hamor RE, Allender MC, Disney JL. "Characteristics of, prevalence of, and risk factors for corneal pigmentation (pigmentary keratopathy) in Pugs." J Am Vet Med Assoc 2013;243(5):667-674. (確認日 2026-09-04。NCBI eutils APIでPubMed抄録を取得し逐語照合) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23971846/
  • Packer RMA, Hendricks A, Burn CC. "Impact of Facial Conformation on Canine Health: Corneal Ulceration" PLOS ONE 2015;10(5):e0123827. doi:10.1371/journal.pone.0123827 / https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0123827 (確認日 2026-09-04。HTML本文を取得しgrepで逐語照合) https://doi.org/10.1371/journal.pone.0123827
  • OMIA(University of Sydney)「OMIA:000844-9615: Pyruvate kinase deficiency of erythrocyte in Canis lupus familiaris (dog)」 (確認日 2026-09-04。HTMLを取得しgrepで逐語照合) https://omia.org/OMIA000844/9615/
  • 一般社団法人ジャパンケネルクラブ「発生リスクが高いと考えられている犬種リスト」 (確認日 2026-09-04。HTMLのtable要素を直接取得。HD欄34犬種・ED欄18犬種のいずれにもパグの記載はない) https://www.jkc.or.jp/forms/typelist/
  • アニコム損害保険『アニコム家庭どうぶつ白書2023』第2部 第4章「寿命と死亡」表2-4-3「犬種別の平均寿命(2021年度)」(62ページ) (確認日 2026-09-04。白書PDF原本を取得しページ本文を逐語照合。パグ/小型/12.8、犬全体の平均寿命14.2歳。**犬種別の集計頭数は白書に掲載がない**) https://www.anicom-page.com/hakusho/book/pdf/book_202312_2_4.pdf

この記事について

内容確認日: 2026-09-04(この日時点の一次情報にもとづいています)

本記事は一般的な参考情報であり、獣医療行為やその代替ではありません。うちの子の体調で気になることがあるときは、かかりつけの獣医師にご相談ください。