ジャックラッセルテリアのかかりやすい病気と遺伝病|家系での備え
内容確認日 2026-09-03・うちのこ家系図 読みもの
目次
「ジャックラッセルテリアで新しい遺伝病が見つかったらしい」——2020年、そんなニュースを見た飼い主は少なくないはずです。岐阜大学のグループが発表したこの病気は、まだ研究の途上にあります。
この記事では、報道記事ではなく、岐阜大学の発表資料・科学研究費助成事業(科研費)のデータベース・学術データベースOMIA・原著論文といった一次ソースをもとに、この犬種で名前が挙がる体質を整理しました。研究段階のものは「研究段階である」と明示し、症状の一覧や検査の推奨はしていません。診断・治療の方針は、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。
結論|この犬種で名前が挙がる病気

要点: 岐阜大学が2020年に発表した「遺伝性消化管ポリポーシス」は研究段階の遺伝病です。学術データベースOMIAには、重症複合免疫不全症と原発性水晶体脱臼(目)が、この犬種を含む体質として登録されています。膝のパテラは犬種を問わない体質で、JKCの発生リスク犬種リストにこの犬種の記載はありません。
ジャックラッセルテリアという名前とあわせて語られる体質を、確認できた一次ソースの種類ごとに並べると次のとおりです(いずれも確認日 2026-09-03)。
- 岐阜大学の発表・科研費データベース・査読論文——遺伝性消化管ポリポーシス(研究段階)
- 学術データベースOMIA——重症複合免疫不全症(PRKDC遺伝子)・原発性水晶体脱臼(ADAMTS17遺伝子)
- JKC「発生リスクが高いと考えられている犬種リスト」——股関節形成不全症・肘関節異形成症のいずれの欄にも、この犬種の記載なし
以下では、研究段階のものから確立した知見の順に、それぞれ別の見出しで整理します。研究段階の情報を、確立した知見と同じ扱いにはしません。
近年報告された消化管の遺伝病|研究が進行中の体質

要点: 岐阜大学のグループが2020年、APC遺伝子の生殖細胞系列変異による優性遺伝病「遺伝性消化管ポリポーシス」(科研費の課題名では「消化管腫瘍性ポリポーシス」)を発見したと発表しました。胃・大腸に腫瘍性のポリープができるとされる病気で、ヒトの家族性大腸腺腫症に似ているとされています。同じ研究グループは2022年、国内93の動物病院で2020年に採血したジャックラッセルテリア792頭を調べ、原因となるAPC遺伝子変異を持っていたのは15頭・全体の約1.89%だったと報告しています(Yoshizaki ら, BMC Veterinary Research 2022・確認日 2026-09-03)。
岐阜大学応用生物科学部・共同獣医学科の平田暁大助教(現・准教授)、酒井洋樹教授、森崇教授、西飯直仁准教授、川部美史助教、連合獣医学研究科の吉嵜響子さんらのグループは、イヌの新たな遺伝病「遺伝性消化管ポリポーシス」を発見したと発表しました(岐阜大学プレスリリース・2020年5月27日掲載)。研究成果は、日本時間2020年5月23日に学術誌Carcinogenesisのオンライン版で公開されています(Yoshizaki, Hirata et al., Carcinogenesis 2021, 42(1), 70-79・doi:10.1093/carcin/bgaa045)。
発表によると、この病気は「胃および大腸における腫瘍性ポリープ(腺腫・腺癌)の発生を特徴とする」体質で、原因はAPC遺伝子の生殖細胞系列変異、遺伝形式は「両親から1つずつもらう遺伝子対の片方の遺伝子に異常があれば発症する」優性遺伝病とされています(岐阜大学プレスリリース・確認日 2026-09-03)。さらに「本疾患はヒトの家族性大腸腺腫症の類似疾患と考えられる」とも記載されています(同上)。
この病気がどのくらいの割合で見られるのかは、同じ研究グループが2022年に別の論文で報告しています。国内93の動物病院で2020年に採取したジャックラッセルテリア792頭の血液を調べたところ、原因となるAPC遺伝子の生殖細胞系列変異が確認されたのは15頭で、全体の1.89%(15÷792)だったとされています。論文の結論には、この792頭中15頭という結果をもとに、日本のジャックラッセルテリアにおける現在の頻度は「およそ2%」で、過去15年ほぼ横ばいだったと記載されています(Yoshizaki ら, BMC Veterinary Research 2022・確認日 2026-09-03)。この数字は、この調査に協力した動物病院で採血された792頭という母集団についてのものです。
研究段階Box(確認日 2026-09-03): この病気は2020年に発表されたばかりで、日本発の進行中の研究です。岐阜大学の研究チームは2022〜2024年度、科学研究費助成事業(基盤研究C)として「重症化に関わる先天的な因子(重症化する症例が有する遺伝子多型)と後天的な因子(悪性化した腫瘍に生じた遺伝子異常)を明らかにし、そのメカニズムを包括的に解明する」ことを目的とした研究課題に取り組みました(KAKEN・確認日 2026-09-03)。有病率・好発の度合い・進行のしかたは、今後の研究で見え方が変わる可能性があります。気になる変化があれば、自己判断せず獣医師にご相談ください。次回点検予定: 2026-12-03(通常の6ヶ月ではなく3ヶ月ごとに確認します)。
この病気について、当サイトで確認できた一次資料は、大学の発表資料・科研費データベース・原著論文の書誌情報、そして査読つきの学術誌に掲載された疫学調査の論文です。新聞・ニュースサイト・大学ジャーナル等の報道は、この病気が話題になった経緯を伝えるものであり、この記事では健康・数値に関する根拠としては使っていません。動物病院や検査会社による研究協力の呼びかけ・検査項目の案内も、この記事では転載していません。
重症複合免疫不全症|学術データベースに登録されている体質
要点: 重症複合免疫不全症(SCID)は、学術データベースOMIAに、PRKDC遺伝子に関わる常染色体潜性の体質として、この犬種を対象に登録されています。原因となる変異は2002年の研究で報告されたものです。
もう一つ、学術データベースOMIAでこの犬種の名前とともに登録されている体質が、重症複合免疫不全症です。OMIAには「Severe combined immunodeficiency disease, autosomal, PRKDC-related」として、原因遺伝子PRKDC、遺伝形式「常染色体潜性」、対象犬種「Jack Russell Terrier」が記載されています(OMIA・確認日 2026-09-03)。原因となる変異については、Ding らによる2002年の研究が「10,828番目の塩基に終止コドンを生じる点変異」を同定したと、同データベースに記載されています(同上)。
「複合免疫不全」という名前のとおり、免疫の働きに関わる体質として知られていますが、この記事では症状の一覧は載せません。学術データベースに登録されている事実と、原因遺伝子・遺伝形式の範囲にとどめます。
目の病気|原発性水晶体脱臼(PRAとは別の型)

要点: 目のレンズがずれる原発性水晶体脱臼も、学術データベースOMIAに、ADAMTS17遺伝子に関わる常染色体潜性の体質として、この犬種を対象に登録されています。進行性網膜萎縮症(PRA)とは、原因も仕組みも異なる別の病気です。
目の病気としては、レンズ(水晶体)の位置がずれる「原発性水晶体脱臼」が、OMIAにこの犬種を対象犬種として登録されています。原因遺伝子はADAMTS17、遺伝形式は常染色体潜性です(OMIA・確認日 2026-09-03)。同データベースには、この変異を報告した研究として、この犬種の患犬28頭と対照犬20頭を対象にした2010年の研究(Farias et al., 2010)が挙げられています(同上)。
これは、進行性網膜萎縮症(PRA)とは原因遺伝子も仕組みも異なる、別の型の目の病気です。同じ「目の病気」という括りで混同しないことが、家系の情報を整理するうえで役立ちます。
膝|パテラ(膝蓋骨脱臼)は犬種を問わない体質

要点: 膝のお皿がずれる膝蓋骨脱臼(パテラ)は、小型犬全般で報告される、犬種を問わない体質です。仕組みや家系での備え方は横断記事にまとめています。
活発に動き回るこの犬種の飼い主から、膝を心配する声を聞くことがあります。膝蓋骨(膝のお皿)がずれる膝蓋骨脱臼は、この犬種に限らず、小型犬全般で報告される体質です。仕組みやグレードという考え方、家系での備え方は、犬の膝蓋骨脱臼(パテラ)|犬種別に家系で発見にまとめています。
「リストに載っていない」ことの意味
要点: JKCが公開している「発生リスクが高いと考えられている犬種リスト」の股関節形成不全症(HD)欄・肘関節異形成症(ED)欄のいずれにも、この犬種の記載はありません。ただし「載っていない=発症しない」と読める性質のリストではありません。
JKCが公開している「発生リスクが高いと考えられている犬種リスト」を確認したところ、股関節形成不全症(HD)・肘関節異形成症(ED)のいずれの欄にも、ジャック・ラッセル・テリアの記載は見当たりませんでした(JKC・確認日 2026-09-03)。
このリストは、掲載されている犬種で「発生リスクが高いと考えられている」ことを示すもので、載っていない犬種で起こらないと保証するものではありません。リストの成り立ちや、掲載犬種でどう読むかについては、犬の遺伝病一覧|代表的な病気と犬種別の傾向で詳しく解説しています。この犬種そのものの成り立ちや性格の傾向は、ジャックラッセルテリアの性格と特徴にまとめています。
家系でできる備え

要点: 研究段階の体質も、確立した体質も、両親犬・兄弟犬の情報が手がかりになる点は同じです。健診で指摘されたことと、家系の情報をつなげておくと、次の受診で伝えやすくなります。
遺伝性消化管ポリポーシスのように研究段階の体質は、飼い主にできることが限られています。それでも、両親犬・兄弟犬に気になる体調の変化があったかどうかは、記録として残しておく価値のある情報です。先ほどの2022年の報告では、変異を持っていた犬の家系をたどった結果、この変異が特定の家系だけにとどまらず、日本のジャックラッセルテリアに広く分布していたこと、保因犬の祖先の一部がオーストラリアやニュージーランドの犬だったことが記載されています(Yoshizaki ら, BMC Veterinary Research 2022・確認日 2026-09-03)。家系をさかのぼれる記録が残っていることは、こうした調査の土台にもなります。重症複合免疫不全症・原発性水晶体脱臼は、原因遺伝子が特定されているため、遺伝子検査の対象になっていることがあります。検査の種類・仕組み・限界は犬の遺伝子検査ガイドにまとめています。受けるかどうかは、うちの子の年齢や状態をふまえて、かかりつけの獣医師と相談して決めてください。
うちのこ家系図には、両親犬・兄弟犬の健康の記録を、家系図と同じ場所に残しておけます。同じ実家(犬舎)で生まれた兄弟犬の情報が積み重なれば、この犬種で研究が進んでいる体質についても、家系ごとの手がかりが増えていく可能性があります。
よくある質問
Q. ジャックラッセルテリアで新しい遺伝病が見つかったというニュースを見ました。うちの子も検査したほうがいいのでしょうか?
この記事で扱った遺伝性消化管ポリポーシスは、2020年に発表されたばかりの研究段階の病気です。検査を受けるべきかどうかを、この記事で判断することはできません。気になる場合は、かかりつけの獣医師にご相談ください。
Q. JKCの「発生リスクが高いと考えられている犬種リスト」には載っていないようですが、大丈夫ということですか?
このリストは股関節形成不全症・肘関節異形成症について「発生リスクが高いと考えられている」犬種を挙げたものです。載っていないことが、他の体質も含めて発症しないことを保証するものではありません。リストの趣旨は犬の遺伝病一覧で解説しています。
Q. 膝が心配です。この犬種で気をつけたほうがいいですか?
膝蓋骨脱臼(パテラ)は、この犬種に限らず小型犬全般で報告される体質です。仕組みと家系での備え方は犬の膝蓋骨脱臼(パテラ)で詳しく解説しています。
まとめ|研究段階のものと、確立した知見を分けて見る
- 遺伝性消化管ポリポーシスは、岐阜大学のグループが2020年に発表した研究段階の遺伝病。2022年の報告では、国内792頭中15頭(約1.89%)に原因となる変異が確認されたとされている
- 重症複合免疫不全症・原発性水晶体脱臼は、学術データベースOMIAにこの犬種を対象に登録されている体質
- 膝のパテラは犬種を問わない体質で、JKCの発生リスク犬種リストにこの犬種の記載はない
- リストに載っていないことは、発症しないことの保証ではない
- 研究段階の体質も確立した体質も、両親犬・兄弟犬の記録が家系での手がかりになる
新しく見つかった病気のニュースは、飼い主を不安にさせることがあります。それでも、報道だけを追うより、誰が・いつ・何を発表したのかを確かめ、確立した知見と研究段階の知見を分けて見ることが、うちの子と向き合う土台になります。
本記事は参考情報です。この記事は病気の診断・治療方針を示すものではありません。特に遺伝性消化管ポリポーシスは研究段階の情報であり、今後の研究で内容が更新される可能性があります。うちの子の健康や検査については、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。 記事中のデータは2026年9月3日時点で岐阜大学・科学研究費助成事業データベース・BMC Veterinary Research 掲載論文・学術データベースOMIA・JKC公式サイトを確認したものです。
出典・参考
- 岐阜大学「イヌの新たな遺伝病を発見:ヒトの家族性大腸腺腫症に類似したイヌの遺伝性腫瘍を発見」(2020年5月27日掲載・応用生物科学部 平田暁大助教ほか) (確認日 2026-09-03。Chrome UAでHTTP 200・ページ表題と掲載日表示2020.05.27を逐語確認) https://www.gifu-u.ac.jp/news/research/2020/05/entry27-7979.html
- Yoshizaki K, Hirata A, Nishii N, Kawabe M, Goto M, Mori T, Sakai H. "Familial adenomatous polyposis in dogs: hereditary gastrointestinal polyposis in Jack Russell Terriers with germline APC mutations." Carcinogenesis, 2021, 42(1), 70-79(オンライン公開 2020-05-23・冊子体 2021-02-11). doi:10.1093/carcin/bgaa045 https://doi.org/10.1093/carcin/bgaa045 (確認日 2026-09-03。academic.oup.com は Chrome UA でも HTTP 403〈bot判定であって到達不可ではない〉。書誌は CrossRef API https://api.crossref.org/works/10.1093/carcin/bgaa045 〈HTTP 200〉で表題・誌名・42(1)・70-79・オンライン公開2020-05-23・著者7名を照合) https://academic.oup.com/carcin/article-abstract/42/1/70/5843468
- Yoshizaki K, Hirata A, Matsushita H, Sakaguchi M, Yoneji W, Owaki K, Sakai H. "Molecular epidemiological study of germline APC variant associated with hereditary gastrointestinal polyposis in dogs: current frequency in Jack Russell Terriers in Japan and breed distribution." BMC Veterinary Research, 2022, 18(1), 230(2022年6月18日公開・オープンアクセス). doi:10.1186/s12917-022-03338-w (確認日 2026-09-03。KAKEN 22K05985 の発表論文欄に掲載されている同一研究グループの論文。本文HTMLをChrome UAで取得〈HTTP 200〉し792頭・93病院・15頭・1.89%を逐語照合) https://doi.org/10.1186/s12917-022-03338-w
- KAKEN(科学研究費助成事業データベース)「犬の新たな遺伝性疾患である『消化管腫瘍性ポリポーシス』の重症化機構の解明」(研究代表者: 平田暁大・研究期間 2022〜2024年度・基盤研究C) (確認日 2026-09-03) https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22K05985/
- OMIA(University of Sydney)"Severe combined immunodeficiency disease, autosomal, PRKDC-related in Canis lupus familiaris (dog)" (確認日 2026-09-03) https://www.omia.org/OMIA000220/9615/
- OMIA(University of Sydney)"Lens luxation in Canis lupus familiaris (dog)" (確認日 2026-09-03) https://omia.org/OMIA000588/9615/
- 一般社団法人ジャパンケネルクラブ「発生リスクが高いと考えられている犬種リスト」 (確認日 2026-09-03。ジャック・ラッセル・テリアはHD欄・ED欄のいずれにも記載なしを自ら確認) https://www.jkc.or.jp/forms/typelist/
この記事について
内容確認日: 2026-09-03(この日時点の一次情報にもとづいています)
本記事は一般的な参考情報であり、獣医療行為やその代替ではありません。うちの子の体調で気になることがあるときは、かかりつけの獣医師にご相談ください。
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