犬種と健康

イタリアングレーハウンドのかかりやすい病気と遺伝病|けが・歯と寿命・家系での備え

内容確認日 2026-09-07うちのこ家系図 読みもの

イタリアングレーハウンドのかかりやすい病気と遺伝病。骨格の細さと歯の体質、寿命について一次資料から解説
目次
  1. 1結論|この犬種でまず語られるのは「けが」
  2. 2体のつくりと、若いうちのけがについて
  3. 3歯のこと|エナメル質形成不全という体質
  4. 4歯周病のリスク因子としての「小型犬種」
  5. 5寿命について|白書に載っている数字と、その条件
  6. 6家系でできること
  7. 7よくある質問
  8. 8まとめ|けがと歯の体質、確認できたことと確認できなかったこと

イタリアン・グレーハウンドでまず語られることが多いのは、病気というより「けが」です。標準が示す体のつくりの細さが、その背景にあります。この記事では、骨格に関わる話題、原因の変異まで特定されている歯の体質、そして白書に記載されている平均寿命とその条件を、一次資料にもとづいて整理します。

結論|この犬種でまず語られるのは「けが」

フローリングに敷いた滑り止めのラグの端を手で押さえる後ろ姿の女性と、そのラグの上に立つフォーンのイタリアン・グレーハウンド

要点: イタリアン・グレーハウンドの標準は、後脚の下腿部について「非常に傾斜し、洗練された骨格を持つ」と定めています。犬全体の話として、小型・トイ犬種では前腕の骨折が起きやすいと報告されている論文がありますが、この犬種を名指しして分母つきで骨折の割合を示した資料は見つかっていません。

この犬種の標準を見ると、後脚の下腿部(Lower thigh)について「非常に傾斜し、洗練された骨格を持ち、脚の筋肉に明瞭な溝が見られる」と定められています(FCI-Standard No.200)。「洗練された骨格」という表現は骨の質を述べたものであり、骨折の頻度そのものを述べたものではありません。体高・体重の標準値や気質の記述は、イタリアングレーハウンドの性格と特徴|標準の数値が語る体のつくりにまとめています。

体のつくりと、若いうちのけがについて

低いソファから床へ降りるイタリアン・グレーハウンドの胸と後ろを両手で支える男性

要点: 犬の前腕(橈骨・尺骨)の骨折について、「犬の骨折の中で3番目に多い」とし、「トイ種や小型犬種は、落下やジャンプの後に前腕骨折を起こしやすい傾向がある」と報告している論文があります。ただし、この論文がどの犬種を「トイ種・小型犬種」に含めているかは、確認できた範囲では特定できません。

犬の前腕の骨折についての研究論文には、「橈骨と尺骨の遠位端の骨折は、犬の骨折の中で3番目に多い」とし、「トイ種や小型犬種は、落下やジャンプの後に前腕骨折を起こしやすい傾向がある」と報告しているものがあります(Brianza et al., 2006)。この論文が対象にしたのは、大型・中型・トイの3つのサイズ区分に分けた28頭の骨を、コンピュータ断層撮影で計測したものであり、骨折の発生件数そのものを分母つきで集計したものではありません。また、この論文がどの犬種を「トイ種・小型犬種」に含めているかは、抄録からは特定できませんでした。

同じ抄録は、こうした骨折の多くが両方の骨の遠位側3分の1に起こり、橈骨の長さのうち15〜37%にあたる範囲が関わるとしています(同上)。そのうえでこの論文は、トイ犬種でこの骨折が多いことについて、原因となる仕組みはわかっていない、と述べています(同上)。つまり「なぜ多いのか」は、この論文の時点では説明がついていないということです。

この犬種の名前を挙げて、骨折の割合を分母つきで報告した資料は、確認できた範囲では見つかっていません。書けるのは、標準が示す骨格の細さという体のつくりの事実と、小型・トイ犬種一般についてこうした報告があるという事実までです。「この犬種は骨折が多い」と断定することはできません。

歯のこと|エナメル質形成不全という体質

床に座った女性に上唇をそっと持ち上げられて前歯を見せている、フォーンのイタリアン・グレーハウンド

要点: 学術データベースOMIAには、イタリアン・グレーハウンドで報告されているエナメル質形成不全の項目があります。常染色体潜性の遺伝形式で、2013年に原因となる遺伝子の変異が特定されました。

学術データベースOMIA(シドニー大学が運営する遺伝性疾患のデータベース)には、この犬種で報告されているエナメル質形成不全(エナメル質減形成)の項目があります。常染色体潜性(劣性)の遺伝形式で、2013年に原因となる変異が報告されました(OMIA)。同じページは、この病名について「エナメル質減形成(Enamel hypoplasia)としても知られる」とも記しています(同上)。動物病院でこちらの呼び名を聞くこともあります。

研究チームは、患犬22頭と正常犬49頭の遺伝子型を調べるゲノムワイド関連解析を行い、原因となる領域を染色体CFA15上の1.84Mbの範囲に絞り込みました(同上)。この範囲に含まれるENAM遺伝子を患犬3頭・正常犬1頭でシーケンスした結果、5塩基の欠失によってタンパク質の途中で翻訳が止まってしまう変異が見つかったと報告されています(同上)。臨床的には、エナメル質が薄い、または無い部位に、茶色がかった斑点や粗さが生じる体質だと説明されています(同上)。

OMIAのページの読み方には、少し注意が要ります。「Breeds(関連犬種)」の欄に並んでいるのはグレーハウンド、パーソン・ラッセル・テリア、プードル(スタンダード)の3犬種で、イタリアン・グレーハウンドの名前はここには載っていません。ただし同じ欄のすぐ下には、「原因と考えられる変異が記録されている場合は、変異ごとの犬種情報をvariant table(変異の一覧表)で確認するように」という注記が添えられています。そしてその変異の一覧表を見ると、変異ID 452の「Breed(s)」欄に、この犬種の名前が入っています(同上)。つまり、Breeds欄に名前が無いことは、この犬種で報告が無いという意味ではありません。

原因となる変異を特定した論文の抄録には、この犬種でのエナメル質欠陥の割合と、歯が正常な犬のうち保因者が占める割合が示されています。ただし、その割合の分母となる調査頭数が抄録に書かれておらず、全文(Wiley)にも到達できていないため、本記事では割合の数字そのものを扱いません。確かなこととして書けるのは、原因となる変異が特定されている、という事実です。

歯周病のリスク因子としての「小型犬種」

要点: MSD獣医マニュアルは、2歳までに何らかの歯周病を持つ犬は犬全体の最大80%にのぼるとし、リスク因子の一つとして「トイ犬種」を挙げています。

歯周病の一般的な傾向として、MSD獣医マニュアルは、2歳までに何らかの歯周病を持つ犬は犬全体の最大80%にのぼるとし、そのリスク因子の一つとして「トイ犬種」を挙げています(MSD Veterinary Manual)。ここでいう「トイ犬種」にこの犬種が含まれるかどうかは、このページの記述だけでは特定できません。書けるのは、小型の犬種が歯周病のリスク因子として一般に挙げられているという事実までです。

寿命について|白書に載っている数字と、その条件

要点: アニコム損保『アニコム家庭どうぶつ白書2023』の表2-4-3「犬種別の平均寿命(2021年度)」には、イタリアン・グレーハウンドの行があり、サイズ区分は「小型」、平均寿命は14.6歳と記載されています。これは同社の保険契約を対象にした生命表の0歳時点の平均余命です。

アニコム損保が公表している『アニコム家庭どうぶつ白書2023』には、犬種別の平均寿命をまとめた表2-4-3「犬種別の平均寿命(2021年度)」があります。この表にはこの犬種の行があり、サイズ区分は「小型」、平均寿命は14.6歳と記載されています(アニコム損保)。

ただし、この14.6という数字を読むときには、いくつかの条件があります。白書の注記によれば、この集計は同社の保険契約を開始した犬を対象に、年度ごとの契約頭数と、そのうち死亡・解約の届け出のあった頭数からカレント生命表を作成し、0歳時点での平均余命を平均寿命としたものです。また、犬種ごとの比較の対象になっているのは契約頭数の上位40品種であり、1犬種あたりの頭数は公表されていません(同上)。

つまりこの数字は、ある保険会社の契約データという特定の母集団から算出された値であって、うちの子が何歳まで生きるかを示すものではありません。数字そのものより、うちの子自身の記録を残しておくことのほうが、日々の変化に気づく手がかりになります。

家系でできること

ローテーブルの小さな手帳に鉛筆で書き込む男性と、手前のラグに横向きに伏せるグレーのイタリアン・グレーハウンド

そのほか、色素の薄い被毛に関わる体質は犬の毛色と健康の関係|マール・ダップル・希釈カラー、進行性網膜萎縮症(PRA)は犬の進行性網膜萎縮症|犬種別・家系で早期発見でそれぞれ扱っています。

エナメル質形成不全という歯の体質も、標準が示す体のつくりも、両親犬・兄弟犬の情報がわかっていると、うちの子を見守るときの助けになります。うちのこ家系図では、歯の状態や体重の記録を書き残せます。もし骨折やけがをした日があれば、その日付と場所を残しておくと、後から振り返るときの手がかりになります。健診の受け方は犬の健康診断は年に何回?頻度の目安と、結果の残し方で、体重の記録のコツは犬の体重の測り方と記録のコツ|家でできる測定と続け方で解説しています。犬全体の遺伝病の傾向は犬の遺伝病一覧|代表的な病気と犬種別の傾向にまとめています。

よくある質問

Q. イタリアングレーハウンドは骨折しやすいと聞きましたが、本当ですか?

この犬種の名前を挙げて、分母つきで骨折の割合を報告した一次資料は、確認できた範囲では見つかっていません。標準は「洗練された骨格」という体のつくりを示していますが、これは骨折の頻度を示すものではありません。小型・トイ犬種一般については前腕骨折が起きやすいという報告がありますが、その原因となる仕組みはわかっていないとされています。

Q. エナメル質形成不全とはどんな体質ですか?

エナメル質が薄い、または無い部位ができる遺伝性の体質です。エナメル質減形成とも呼ばれます。常染色体潜性の遺伝形式で、原因となる遺伝子の変異が2013年に特定されています。有病率の具体的な数字は、確認できた資料の範囲では分母が示されておらず、この記事では使用していません。

Q. 平均寿命14.6歳という数字はどう受け止めればいいですか?

ある保険会社の契約データをもとにした生命表の、0歳時点の平均余命です。比較の対象は契約頭数の上位40品種にかぎられ、1犬種あたりの頭数も公表されていません。集団の平均値であり、うちの子個体の見通しを示すものではありません。

まとめ|けがと歯の体質、確認できたことと確認できなかったこと

  • 標準はイタリアン・グレーハウンドの後脚の下腿部を「洗練された骨格」と定めているが、これは骨の質の表現で骨折の頻度を示すものではない
  • 小型・トイ犬種一般で前腕骨折が起きやすいという報告はあるが、この犬種を名指しした分母つきの資料は見つかっていない。原因となる仕組みも不明とされている
  • エナメル質形成不全は原因の遺伝子変異まで特定されている。OMIAのBreeds欄に名前は無いが、変異の一覧表の犬種欄には名前がある
  • 有病率・保因率の割合は分母が確認できないため数字を扱っていない
  • 歯周病のリスク因子として「トイ犬種」が挙げられているが、この犬種が含まれるかは特定できない
  • アニコム損保の白書の表2-4-3では平均寿命14.6歳と記載されているが、保険契約を母集団とした生命表の0歳時点の平均余命である

確認できたことと確認できなかったことを分けて示すことが、うちの子の記録と向き合ううえでの土台になります。


本記事は参考情報です。この記事は病気の診断・治療方針を示すものではありません。気になる様子があれば、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。 記事中のデータは2026年9月7日時点でOMIA・MSD獣医マニュアル・FCI・PubMed・アニコム損保の各資料を確認したものです。

出典・参考

  • OMIA(University of Sydney)OMIA:001805-9615 "Amelogenesis imperfecta, ENAM-related in Canis lupus familiaris (dog)" (確認日 2026-09-07。Species summary・Mode of inheritance・Mapping・Molecular basis・Clinical features・Breeds欄・Variants表を確認。Breeds欄にこの犬種名が無いこと、Variants表のBreed(s)欄にはこの犬種名があることの両方を確認) https://omia.org/OMIA001805/9615/
  • MSD Veterinary Manual(PROFESSIONAL VERSION)"Periodontal Disease in Small Animals" (確認日 2026-09-07。Epidemiology節を確認。Treatment節・Prevention節・臨床徴候の列挙は使用していない) https://www.msdvetmanual.com/digestive-system/dentistry/periodontal-disease-in-small-animals
  • FCI(Fédération Cynologique Internationale)"FCI-Standard N° 200 PICCOLO LEVRIERO ITALIANO"(17.12.2015/EN) (確認日 2026-09-07。LIMBS→HINDQUARTERS→Lower thighの項を確認。SIZE AND WEIGHT・Forearmの項はBH-23が使用しているため本記事では引用していない) https://www.fci.be/Nomenclature/Standards/200g10-en.pdf
  • Gandolfi B, Liu H, Griffioen L, Pedersen NC. "Simple recessive mutation in ENAM is associated with amelogenesis imperfecta in Italian Greyhounds." Anim Genet. 2013;44(5):569-78. PMID 23638899 (確認日 2026-09-07。抄録のみ確認。全文(Wiley)はUA変更・Referer付与でも403が返り、購読制限かbot判定かは特定できなかったため、抄録に分母の記載が無い割合の数値は本文で使用していない) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23638899/
  • Brianza SZ, et al. "Cross-sectional geometrical properties of distal radius and ulna in large, medium and toy breed dogs." J Biomech. 2006;39(2):302-11. PMID 16321632 (確認日 2026-09-07。抄録のみ確認。犬種名の特定・骨折件数の分母の記載は無く、トイ・小型犬種一般についての記述として使用した) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16321632/
  • アニコム損害保険『アニコム家庭どうぶつ白書2023』第2部 第4章「寿命と死亡」表2-4-3「犬種別の平均寿命(2021年度)」 (確認日 2026-09-07。PDF原本をChrome UAで取得しPyMuPDFでテキスト抽出して逐語照合。「イタリアン・グレーハウンド/小型/14.6」。算出方法の注記「0歳時点での平均余命を平均寿命とした」「各品種の比較では、犬は契約頭数の上位40品種を…対象に」も同一PDFで確認) https://www.anicom-page.com/hakusho/book/pdf/book_202312_2_4.pdf

この記事について

内容確認日: 2026-09-07(この日時点の一次情報にもとづいています)

本記事は一般的な参考情報であり、獣医療行為やその代替ではありません。うちの子の体調で気になることがあるときは、かかりつけの獣医師にご相談ください。