遺伝のはなし

犬の毛色と健康の関係|マール・ダップル・希釈カラー

内容確認日 2026-09-01うちのこ家系図 読みもの

マール模様の犬と暮らす飼い主。毛色と健康の関係を知り、うちの子の記録を残していく
目次
  1. 1毛色と健康に関係があると言われるのはなぜか
  2. 2マール遺伝子とは|模様がつくられる仕組み
  3. 3マール×マール(ダブルマール)で言われていること
  4. 4ダックスのダップル同士について言われていること
  5. 5カラー希釈脱毛症(希釈色で報告される体質)
  6. 6白い被毛・青い目と聴こえの関係
  7. 7すでに迎えた子の飼い主さんへ|毛色は変えられないから、記録して見守る
  8. 8よくある質問
  9. 9まとめ|毛色は知って、記録して、見守るもの

「ダブルマールは避けるべき」——マール模様の子犬を調べていると、そんな書き込みを目にすることがあります。何のことかわからないまま、なんとなく不安だけが残ってしまう。そんな方に向けて、この記事を書きました。

先に結論をまとめます。

  • 一部の毛色は、聴こえや見え方に関わる体の仕組みと、遺伝的に近い関係にあるとされています
  • 特に「マール×マール(ダブルマール)」の交配で生まれる子には、聴覚・視覚の異常が報告されています
  • これは特定の毛色や交配そのものを非難する話ではなく、「知っておくと選択や記録に活かせる情報」です

この記事では、マール遺伝子の仕組み、ダブルマール・ダックスフンドのダップルで報告されていること、カラー希釈脱毛症、白い被毛と聴こえの関係まで、学術論文をもとに中立に整理しました。

毛色と健康に関係があると言われるのはなぜか

要点: 毛色をつくる遺伝子の中には、聴覚・視覚に関わる細胞の働きとも関係が深いものがあります。ただし、そのしくみのすべてが解明されているわけではありません。

「毛色と健康に関係がある」と聞くと、不思議に思うかもしれません。しかし実は、毛の色をつくる細胞(色素細胞)は、耳の中や目の中でも働いている細胞です。そのため、色素に関わる遺伝子に変化があると、毛色だけでなく、聴こえや見え方にも影響が及ぶことがあるとされています。

アメリカ・ルイジアナ州立大学獣医学部で先天性難聴の研究を続けるジョージ・M・ストレイン氏の解説サイトでは、色素に関わる遺伝子と難聴の関連について、次のように説明されています。

Neither this report...explain yet how the pigmentation genes result in deafness. (色素遺伝子がどのように難聴を引き起こすのか、そのしくみはまだ十分に説明されていません) (出典: Louisiana State University School of Veterinary Medicine「Deafness in Dogs and Cats」・確認日 2026-09-01)

つまり、「色素に関わる遺伝子と、聴覚・視覚の異常には関連がある」ということは複数の研究で示されている一方、「なぜそうなるのか」という詳しいしくみは、今も研究が続いているテーマだということです。

マール遺伝子とは|模様がつくられる仕組み

要点: マール模様は、SILVという遺伝子の変化によってつくられるとされています。この遺伝子の変化が、色素の分布だけでなく、聴覚・視覚の発達にも関わっていると考えられています。

マール模様(不規則な斑点状の色の抜けが特徴的な毛色)がどうやってつくられるのかは、遺伝学の研究で明らかにされてきました。2006年に発表された研究では、犬のマール模様は「SILV」という遺伝子への、レトロトランスポゾンと呼ばれる配列の挿入によって生じることが報告されています(Clark et al., 2006, Proceedings of the National Academy of Sciences・確認日 2026-09-01)。

この遺伝子は、体の中で色素細胞の働きに関わっており、毛色だけでなく、目や耳の発達にも関係しています。遺伝の基本的な仕組み(両親から1つずつ受け継ぐ、という考え方)については、犬の遺伝のしくみ入門で解説しています。

マール×マール(ダブルマール)で言われていること

要点: マール遺伝子を両親それぞれから1つずつ、合計2つ受け継いだ「ダブルマール」の犬では、聴覚・視覚の異常の頻度が高くなると報告されています。

「ブルーマールの子を迎えたいと思って調べていたら『ダブルマールは避けるべき』という書き込みを見つけた。これは何のことで、うちが迎えようとしている子には関係がありますか」——ここが、この記事でいちばんお伝えしたい核心です。

マール模様の犬同士を交配させると、生まれてくる子の一部が、マール遺伝子を両親それぞれから1つずつ、合計2つ受け継ぐことがあります。これが「ダブルマール」と呼ばれる状態です。先ほど紹介した2006年の研究では、ダックスフンドを対象に行われた調査として、ダブルマール(論文中の表記でMM)とシングルマール(Mm)について、次のような報告が引用されています。

54.6% of MM and 36.8% of Mm dogs had auditory dysfunction, ranging from mild to severe deafness. (ダブルマールの54.6%、シングルマールの36.8%に、軽度から重度までの聴覚機能の異常が見られた) (出典: Clark et al., 2006, Proceedings of the National Academy of Sciences。同論文が引用する、ダックスフンドを対象としたReetz et al., 1977の調査結果・確認日 2026-09-01)

さらに同じ論文では、同じくダックスフンドを対象とした研究(Klinckmann et al.)として、マール・ダブルマールでは眼圧の上昇や屈折異常といった目の異常の頻度が有意に高かったと報告されていることも紹介されています(確認日 2026-09-01)。

なお、ここで挙げた数値は、いずれもダックスフンドを対象とした調査によるものです。そのまますべての犬種に当てはまる数値ではなく、犬種によって傾向が異なる可能性がある点も、あわせて知っておきたいところです。

ここで大切なのは、シングルマール(マール遺伝子を1つだけ持つ、いわゆる通常のマール)の犬にも一定の割合で聴覚の異常が報告されている一方、マール遺伝子を2つ持つダブルマールでは、その頻度がさらに高くなっているという点です。「マール×マールの交配は避けたほうがよい」という助言は、こうした研究にもとづくものです。すでにマール模様の子と暮らしている場合、これは今の暮らしを不安視する話ではなく、これから交配を考える際の判断材料として知っておきたい情報です。気になる症状がある場合は、自己判断せず獣医師にご相談ください。

ダックスのダップル同士について言われていること

要点: ダックスフンドの「ダップル」は、マールと同じ遺伝子による毛色です。ダップル同士の交配でも、マールと同様の懸念が報告されています。

「ダックスはダップル同士を交配してはいけないと聞いた。なぜですか。すでにダップルの子を飼っている場合、気をつけることはありますか」——この疑問にお答えします。

先ほど紹介した2006年の研究では、ダックスフンドの「ダップル」という毛色について、次のように説明されています。

The merle phenotype in the Dachshund is known as dapple. (ダックスフンドにおけるマール表現型は「ダップル」と呼ばれている) (出典: Clark et al., 2006, Proceedings of the National Academy of Sciences・確認日 2026-09-01)

つまり、ダップルは呼び名が違うだけで、遺伝的にはマールと同じ現象です。そのため、ダップル同士の交配でも、マール×マールと同じように、ダブルマール(ダブルダップル)の子が生まれる可能性があります。同じ論文では「小眼球症(マイクロフサルミア)や虹彩などの組織欠損(コロボーマ)が、マール・ダブルマールのダックスフンドでよく報告されている」とも述べられています(確認日 2026-09-01)。

すでにダップルの子と暮らしている場合、これらの報告は「必ず異常が起こる」という意味ではありません。目や耳の様子に気になる変化がある場合は、自己判断せず、早めに獣医師に相談することをおすすめします。

カラー希釈脱毛症(希釈色で報告される体質)

要点: ブルーやイザベラなど、色が薄まった「希釈色」の一部の犬には、被毛が薄くなる「カラー希釈脱毛症(CDA)」という体質が報告されています。これはマールとは別の遺伝子(MLPH)が関わる、別の仕組みの現象です。

毛色と健康の関係で、もうひとつよく話題になるのが「カラー希釈脱毛症(Color Dilution Alopecia、略称CDA)」です。これは、ブルーやイザベラといった、色が薄まった毛色(希釈色)の一部の犬で報告される体質で、成長とともに被毛が薄くなったり、皮膚のトラブルが出やすくなったりすることがあるとされています。

希釈色に関わる遺伝子については、「MLPH」という遺伝子の変化が、毛色を薄める性質と関連していることが報告されています(Philipp U, et al., 2005, BMC Genetics・確認日 2026-09-01)。ここで大切な注意点があります。カラー希釈脱毛症は、この記事でここまで説明してきたマール・ダップルとは、まったく別の遺伝子(MLPHとSILV)が関わる、別の仕組みの現象です。両者を混同しないようにしてください。

「うちの子(ブルー系の毛色)だけ毛が薄くなってきた。毛色と関係があるという話を見かけたが本当ですか」——希釈色の犬すべてにカラー希釈脱毛症が起こるわけではありませんが、報告されている体質のひとつではあります。毛や皮膚の様子に変化を感じたら、自己判断せず獣医師にご相談ください。

白い被毛・青い目と聴こえの関係

要点: 白い被毛や、部分的に白い模様(パイボールド)を持つ犬でも、聴覚の異常が報告されています。同じ犬種の中で、白い個体と色のついた個体を比較した調査もあります。

マールだけでなく、白い被毛にも、聴覚との関連が報告されています。白い毛色に関わる「MITF」という遺伝子についても、色素細胞の働きとの関係から、難聴との関連が指摘されています(Louisiana State University School of Veterinary Medicine・確認日 2026-09-01)。

具体的な例として、ブルテリアという犬種を対象にした調査では、白い被毛の個体(362頭)と、色のついた個体とで、聴覚異常の頻度に次のような差が報告されています(確認日 2026-09-01)。

被毛の色片耳の異常両耳の異常合計
白色18.2%2.2%20.4%
色付き1.3%0%1.3%

同じ犬種の中でも、白い被毛の個体のほうが、聴覚の異常の頻度がはっきりと高いことがわかります。ここでも、色素に関わる遺伝子が、聴覚の発達に何らかの形で関わっているとされていますが、その詳しいしくみは、この記事の冒頭で紹介したとおり、まだ十分には解明されていません(確認日 2026-09-01)。

なお、白い被毛を持つ犬種のすべてに同じ関連が報告されているわけではありません。たとえば柴犬にも「白柴」と呼ばれる白い被毛の個体がいますが、柴犬の白い被毛について聴覚との関連を報告した一次資料は、当サイトでは確認できていません。柴犬の毛色4種類(赤・黒・胡麻・白)の特徴・裏白の仕組みについては柴犬の毛色は4種類|赤・黒・胡麻・白と遺伝のしくみで詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

すでに迎えた子の飼い主さんへ|毛色は変えられないから、記録して見守る

要点: 毛色は、あとから変えられるものではありません。だからこそ、今のうちの子の様子を記録し、変化に気づけるようにしておくことが、いちばん現実的にできることです。

ここまで読んで、不安になった方もいるかもしれません。ですが、うちの子の毛色は、もう決まっているものです。これから変えることはできません。大切なのは、必要以上に恐れることではなく、知っておいたうえで、日々の様子を見守ることです。

聴こえや見え方は、写真や動画では気づきにくい変化です。名前を呼んだときの反応、物音への反応、段差や暗い場所での動き方——気になることがあれば、メモや動画で記録しておくと、動物病院での相談のときに役立ちます。うちの子のありのままの毛色も、今の様子も、盛らずにそのまま記録として残しておく。それが、いちばん誠実な向き合い方だと考えています。

うちのこ家系図の健康手帳には、うちの子の様子を日々記録していく機能があります。毛色の変化や気になる出来事を、家系図とあわせて残しておけます。

よくある質問

Q. うちの子はマールですか?見た目だけで判断できますか?

見た目の印象だけで、マール遺伝子の有無を断定することは難しい場合があります。マールらしい模様がはっきりしない「クリプティックマール(隠れマール)」と呼ばれるケースも報告されています。気になる場合は、遺伝子検査や、かかりつけの獣医師への相談をおすすめします。

Q. 毛色によってペット保険の内容は変わりますか?

保険会社や商品によって条件は異なります。毛色そのものよりも、先天性・遺伝性疾患がどう扱われるかが論点になりやすい点については、ペット保険と遺伝性疾患|先天性疾患は補償される?で整理しています。実際の条件は各保険会社にご確認ください。

Q. カラー希釈脱毛症は「退色」と同じものですか?

いいえ、別のものです。退色(プログレッシブ・グレイング)は、成長とともに毛色そのものが自然に薄くなっていく現象で、病気ではありません。一方、カラー希釈脱毛症は、希釈色の一部の犬に報告される、被毛が薄くなる体質です。退色について詳しくはトイプードルの毛色|種類・遺伝・退色と家系図で解説しています。

まとめ|毛色は知って、記録して、見守るもの

  • 毛色をつくる遺伝子は、聴覚・視覚に関わる細胞とも関係が深いとされている
  • マール×マール(ダブルマール)では、聴覚・視覚の異常の頻度が高いと報告されている
  • ダックスフンドの「ダップル」はマールと同じ遺伝子による毛色。同様の懸念が報告されている
  • カラー希釈脱毛症(CDA)はマールとは別の遺伝子(MLPH)による、別の仕組みの現象
  • 白い被毛の犬でも、同じ犬種内で聴覚異常の頻度が高いという報告がある
  • 毛色は変えられない。今のうちの子の様子を記録し、変化に気づけるようにしておくことが大切

うちの子の毛色は、その子だけの個性です。仕組みを知ったうえで、今日の1枚を記録に残していきませんか。


本記事は参考情報です。うちの子の聴覚・視覚・皮膚の状態については、自己判断せず獣医師にご相談ください。 記事中の研究情報は2026年9月1日時点で確認したものです。

出典・参考

この記事について

内容確認日: 2026-09-01(この日時点の一次情報にもとづいています)

本記事は一般的な参考情報であり、獣医療行為やその代替ではありません。うちの子の体調で気になることがあるときは、かかりつけの獣医師にご相談ください。