犬種と健康 更新
ゴールデンレトリーバーの遺伝病・かかりやすい病気と家系での備え
うちのこ家系図 編集部・更新 ・内容確認日 2026-09-02

目次
「大型犬だから、股関節の病気に気をつけたほうがいい」——迎える前や迎えた直後に、こんな話を耳にした飼い主も多いのではないでしょうか。
この記事では、この犬種で報告が多いとされる病気を、「原因遺伝子が特定されているもの」と「複数の要因が組み合わさるもの」に分けて整理しました。前者は家系の記録と遺伝子検査が備えになり、後者は成長期の体の使い方や体重も関わってきます。治療や余命の話はこの記事の範囲ではありません。犬種そのものの成り立ちや性格の傾向は犬種ハブ記事に、股関節形成不全という病気そのものの仕組みは犬の股関節形成不全の記事に委ねています。
結論|報告が多いとされる病気を2つに分ける
要点: ゴールデンレトリーバーでは、股関節・肘関節の形成に関わる病気、進行性網膜萎縮症(PRA)、腫瘍、筋ジストロフィーや魚鱗癬といった遺伝性の体質が報告されています。このうちGR-PRA1・GR-PRA2・魚鱗癬は原因遺伝子が特定され、股関節形成不全と腫瘍は複数の要因が関わるとされています。
JKCが公開している「発生リスクが高いと考えられている犬種リスト」は、股関節形成不全症(HD)34犬種と肘関節異形成症(ED)18犬種の二欄からなり、13犬種が両欄に重複しているため実数は39犬種です。ゴールデン・レトリーバーはHD・EDの両欄に載っています(JKC・確認日 2026-09-02)。関節のほかにも、目・皮膚・血液・腫瘍と、複数の分野で遺伝性の体質が報告されている犬種です。
以下では、まず関節の病気を短く押さえたうえで、原因遺伝子が特定されている目と皮膚の病気、学術研究のある腫瘍、検査項目として知られるそのほかの体質の順に見ていきます。
股関節形成不全・肘関節形成不全|リストの事実と定義だけ

要点: JKCの犬種リストでは、この犬種はHD・EDの両欄に載っています。MSD獣医マニュアルは股関節形成不全を「大型犬における股関節の異常な発達であり、関節の緩みとその後の変形性関節症(骨関節炎)を特徴とする」と定義し、成長・運動・栄養・遺伝的要因が発症に影響するとしています。
「大型犬は股関節の病気が多いと聞きます。どんな病気で、遺伝と関係があるのでしょうか」——大型犬を初めて迎えた家庭で、まず出てくる疑問のひとつです。
この記事で押さえておくのは2点です。ひとつは、JKCのリストでこの犬種がHD・EDの両欄に載っているという事実。もうひとつは、MSD獣医マニュアルの定義——「大型犬における股関節の異常な発達であり、関節の緩みとその後の変形性関節症(骨関節炎)を特徴とする」、発症には「過度な成長、運動、栄養、そして遺伝的要因」が影響する(MSD・確認日 2026-09-02)——です。病気の仕組み、リストに載っている他の犬種、遺伝との関係の考え方は、犬種を横断した犬の股関節形成不全|好発犬種と遺伝、家系で備える考え方に委ねます。
進行性網膜萎縮症(GR-PRA1・GR-PRA2)

要点: 進行性網膜萎縮症(PRA)のうち、この犬種には「GR-PRA1」「GR-PRA2」と呼ばれる特有の原因遺伝子が報告されています。いずれも両親から2つとも受け継いだ場合に発症しやすくなる常染色体潜性(劣性)の遺伝とされています。
「遺伝子検査で『ゴールデンレトリーバー向けセット』があると知りました。何がわかるものなのですか」——このような疑問にお答えします。
PRAは、網膜の機能が徐々に低下していくとされる遺伝性の目の病気です。仕組みの詳しい解説は犬の進行性網膜萎縮症(PRA)の症状と遺伝子検査に譲り、ここでは犬種固有の話を紹介します。
学術データベースOMIA(オーストラリア・シドニー大学が運営)には、この犬種に関連するPRAとして、SLC4A3という遺伝子に関わる「GR-PRA1」と、TTC8という遺伝子に関わる「GR-PRA2」の2種類が登録されています。いずれも遺伝形式は「常染色体潜性(Autosomal recessive)」とされています(OMIA・確認日 2026-09-02)。常染色体潜性とは、両親それぞれから同じ原因遺伝子を1つずつ受け継いだ場合にのみ発症しやすくなる遺伝のしかたで、片方の親からのみ受け継いだ場合(キャリア)は、その犬自身は発症しないとされています。つまり、見た目や健康診断だけでは、家系の中に眠っている原因遺伝子に気づきにくいということです。「犬種向け」として案内される遺伝子検査の項目は会社ごとに異なるため、GR-PRA1・GR-PRA2が含まれているかどうかは、検査の項目表で確認する必要があります。検査そのものの一般的な仕組みは、後述する「検査という選択肢」で紹介します。
腫瘍について言われていること

要点: オランダのゴールデンレトリーバー集団を対象にした学術研究では、肥満細胞腫がもっとも多く観察された悪性腫瘍とされ、リンパ腫(非ホジキンリンパ腫)についても、従来の報告より高い発生率が記録されています。
腫瘍についても、この犬種は報告が多いとされる犬種のひとつとしてしばしば取り上げられます。オランダの動物病理検査機関に提出された4,653例の症例を分析した学術研究があります。「肥満細胞腫(MCT)がもっとも多く観察された悪性の病変であった」とされています。非ホジキンリンパ腫についても、10万頭・年あたり116という推定発生率が算出され、「従来の多くの報告より高い」とされています(Boerkamp et al., BMC Veterinary Research, 2014・確認日 2026-09-02)。この率の分母はオランダのケネルクラブ登録数から推計した集団(年あたり約29,300頭)で、論文自身も、すべての獣医師が検体を提出しているわけではないため実際より低く見積もられている可能性があると述べています。
これらはあくまで、動物病理検査機関に提出された症例を対象にした統計であり、犬種全体に必ず当てはまる数字ではありません。腫瘍の種類・進行の見通し・治療の選択肢については、この記事では扱いません。気になるしこりや体調の変化がある場合は、自己判断せず、できるだけ早く動物病院にご相談ください。
そのほか検査項目として知られている病気
要点: このほか、筋力が徐々に低下していく「X染色体連鎖筋ジストロフィー」や、皮膚の表面がうまく形成されない「魚鱗癬(PNPLA1関連)」といった体質も、この犬種で報告されている遺伝性疾患として知られています。
アニコム損保の犬種別まとめでは、この犬種に関連する遺伝性疾患として、骨密度が低下し骨折しやすくなるとされる「骨形成不全症」と、「X染色体連鎖筋ジストロフィー」が挙げられています。筋ジストロフィーについては、「進行性に筋力が低下していく筋疾患です。遺伝子の変異により、筋細胞の構造を支えるたんぱく質であるジストロフィンが欠乏したり機能異常を起こしたりすることにより、骨格筋の変性や壊死を引き起こします」と説明されています(アニコム損保「遺伝性疾患と発症が多いおもな犬種」node/1377・確認日 2026-09-02)。
もうひとつ、OMIAには、皮膚の表面(角質層)がうまく形成されず、皮膚が厚く黒っぽい鱗状になるとされる「魚鱗癬」が、PNPLA1という遺伝子の変異によってこの犬種で報告されていると登録されています。遺伝形式は常染色体潜性とされています(OMIA)。これらはいずれも、検査項目として存在することが確認できる遺伝性疾患であり、この記事では名前と概要の紹介にとどめます。
遺伝との関係|原因遺伝子が特定されている病気と、そうでない病気
要点: GR-PRA1・GR-PRA2・魚鱗癬(PNPLA1関連)は、いずれも常染色体潜性の遺伝とされ、原因遺伝子まで特定されています。魚鱗癬の原因遺伝子を見つけた研究では、人の同じ病気の患者にも同じ遺伝子の変異が見つかったとされています。
ここまで紹介した病気のうち、GR-PRA1(SLC4A3)・GR-PRA2(TTC8)・魚鱗癬(PNPLA1)は、いずれも原因となる遺伝子まで特定されている点が共通しています。犬の遺伝性疾患の研究は、時に人の医学にもつながることがあります。この犬種の魚鱗癬でPNPLA1という遺伝子の変異を特定した研究では、同じ研究の中で、人の先天性魚鱗癬の患者にもPNPLA1の変異が見つかったとされています(OMIA)。犬と人が同じ屋根の下で暮らしてきた歴史の中で、犬の遺伝性疾患の研究が人の病気の理解にも役立つことがある、という一例といえそうです。
一方、股関節形成不全は、MSD獣医マニュアルでも遺伝的要因に加えて成長・運動・栄養が関わる多因子性の病気とされており、単一の遺伝子で説明できるものではありません。腫瘍についても、遺伝的な素因が指摘されることはありますが、この記事で確認できた範囲では、単一の原因遺伝子までは特定されていません。
「指摘されてすぐ深刻」とは限らない

要点: 遺伝性疾患の原因遺伝子を持っていることと、実際に症状が出ることは、必ずしもイコールではありません。検査や健診での指摘は、経過を見守るきっかけとして受け止めることが大切です。
遺伝子検査で「キャリア」と出た、健診で関節の緩みを指摘された——どちらも、その日から病気が始まるという知らせではありません。GR-PRA1・GR-PRA2のような常染色体潜性の病気では、原因遺伝子を1つだけ持つ「キャリア」の犬は発症しないとされています。JKCの犬種リストも「発生リスクが高いと考えられている」犬種を挙げたものであり、載っている犬種が必ず発症するという意味でも、載っていない犬種に起こらないという意味でもありません。
キャリアと判定された、リストに載っている犬種だと言われた——そのどちらも、うちの子が発症するという意味ではありません。進行しているかどうか、何かすべきかどうかは、獣医師の検査で個別に判断される事柄です。
家系でできる備え|検査結果と健診の指摘をつなげておく

要点: 常染色体潜性の病気は、発症していない両親・兄弟の中に原因遺伝子が隠れていることがあります。血のつながった犬にどんな検査結果や指摘があったかは、うちの子の観察ポイントを絞る材料になります。
ここまで見てきたとおり、この犬種の遺伝性疾患の多くは、見た目だけでは気づきにくいという共通点があります。特にPRAのようなキャリアが隠れうる病気では、両親犬や兄弟犬に発症歴があるかという情報が、うちの子にとって重要な手がかりになります。
うちのこ家系図には、遺伝子検査の結果(クリア/キャリア/アフェクテッド)や健診での指摘を、両親犬・兄弟犬の分も含めて書き添えておけます。大型犬は成長期の体重の増え方が関節の話題と結びつきやすいため、体重の記録も同じ場所に残しておくと、健診で獣医師に見せる材料が一つにまとまります。成長期の体重をどう見るかは体重推移と成長曲線の記事にまとめています。
検査という選択肢
要点: 健診での触診・画像検査に加えて、GR-PRA1・GR-PRA2のように原因遺伝子が特定されている病気については、遺伝子検査でキャリアかどうかを調べられる場合があります。
股関節形成不全のような病気は、健診での触診やレントゲン検査から気づかれることが多いとされています。一方、GR-PRA1・GR-PRA2・魚鱗癬のように原因遺伝子が特定されている病気については、遺伝子検査によって、その犬が原因遺伝子を持っているか、キャリアであるか、持っていないかを調べられる場合があります。検査で何がわかり何がわからないかは犬の遺伝子検査でわかること・種類・費用に、先天性・遺伝性疾患が保険でどう扱われるかはペット保険と先天性疾患・遺伝性疾患|約款の見方にまとめています。受けるかどうかは、繁殖の予定の有無や年齢を含めて、かかりつけの獣医師と相談して決める事柄です。
よくある質問
Q. 大型犬は股関節の病気が多いと聞きます。どんな病気で、遺伝と関係があるのでしょうか?
MSD獣医マニュアルの定義では、股関節形成不全は大型犬の股関節がうまく形成されず、関節の緩みや変形性関節症につながるとされる病気で、成長・運動・栄養に加えて遺伝的要因が発症に影響するとされています。JKCの「発生リスクが高いと考えられている犬種リスト」では、この犬種は股関節形成不全症・肘関節異形成症の両欄に載っています。ただし、リストに載っているからといって必ず発症するわけではありません。病気の仕組みと遺伝の考え方は犬の股関節形成不全の記事で解説しています。
Q. 遺伝子検査で「ゴールデンレトリーバー向けセット」があると知りました。何がわかるものなのですか?
この犬種には、GR-PRA1(SLC4A3遺伝子)・GR-PRA2(TTC8遺伝子)と呼ばれる、犬種に特有の進行性網膜萎縮症の原因遺伝子が報告されています。犬種向けとして案内される検査の項目は会社ごとに異なるため、GR-PRA1・GR-PRA2が含まれているかは項目表で確認する必要があります。検査結果の読み方や、受けるかどうかの判断は、かかりつけの獣医師と相談しながら進めることをおすすめします。
Q. 体重と関節の関係はありますか?
体重の増加が関節への負担を大きくするという考え方は、一般的な理解として広く知られています。この犬種には犬種標準に体重の数値がなく、「平均」と比べるより成長曲線を残すほうが意味のある理由を体重推移と成長曲線の記事で解説しています。日々の体重を記録しておくこと自体は、今日からできる備えのひとつです。
Q. ゴールデンレトリーバーの寿命はどのくらいですか?
アニコム損保の『家庭どうぶつ白書2025』に載るゴールデン・レトリーバーの平均寿命は、2023年度で10.7歳です。同社の保険の契約を始めた犬の生命表をもとに、0歳時点の平均余命を計算したもので、契約頭数の多い上位40品種が対象になっています。白書は犬種ごとの頭数を公表していません。あくまで集計上の値で、うちの子の寿命を言い当てるものではありません。
まとめ|体質は、家系の記録で見守る
- JKCの犬種リストでは、股関節形成不全症(HD)34犬種・肘関節異形成症(ED)18犬種の両欄に載っている。仕組みはB-39へ
- 進行性網膜萎縮症には、GR-PRA1(SLC4A3)・GR-PRA2(TTC8)という犬種に特有の原因遺伝子が報告されている
- 腫瘍については、肥満細胞腫やリンパ腫の報告が学術研究にみられる
- 筋ジストロフィーや魚鱗癬といった、検査項目として知られる体質もある
- 原因遺伝子を持っていることと発症は必ずしもイコールではなく、指摘はすぐに深刻とは限らない
- 両親・兄弟犬の検査結果や健診の指摘を、うちの子の記録と並べておくことがこの犬種の備えになる
原因遺伝子が特定されている病気があるということは、家系の情報が「備え」として使える病気があるということでもあります。両親・兄弟の記録とうちの子の記録をつなげておくことが、この犬種ならではの向き合い方です。
本記事は参考情報です。この記事は病気の診断・治療方針を示すものではありません。関節・目・皮膚・血液の状態や治療の要否については、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。 記事中のデータは2026年9月2日時点で各公式資料・学術データベース・論文を確認したものです。平均寿命の数字(アニコム損保『家庭どうぶつ白書2025』)は2026年10月2日に確認しました。
体重は、写真と一緒に 1 回で記録

画面はイメージです(架空の子の見本)。
出典・参考
- 一般社団法人ジャパンケネルクラブ「発生リスクが高いと考えられている犬種リスト」 (確認日 2026-09-02。執筆者がページを開き、HD欄34犬種・ED欄18犬種を数えて確認) https://www.jkc.or.jp/forms/typelist/
- MSD Veterinary Manual(Merck Veterinary Manual)"Hip Dysplasia" (確認日 2026-09-02) https://www.merckvetmanual.com/dog-owners/bone-joint-and-muscle-disorders-of-dogs/hip-dysplasia
- OMIA(University of Sydney)"Retinal atrophy, progressive, SLC4A3-related in Canis lupus familiaris (dog)" (確認日 2026-09-02) https://omia.org/OMIA001572/9615/
- OMIA(University of Sydney)"Retinal atrophy, progressive, TTC8-related in Canis lupus familiaris (dog)" (確認日 2026-09-02) https://www.omia.org/OMIA001984/9615/
- OMIA(University of Sydney)"Ichthyosis, PNPLA1-related in Canis lupus familiaris (dog)" (確認日 2026-09-02) https://www.omia.org/OMIA001588/9615/
- アニコム損害保険「みんなのどうぶつ病気大百科 遺伝性疾患と発症が多いおもな犬種」 (確認日 2026-09-02。骨形成不全症・X染色体連鎖筋ジストロフィーの好発犬種欄に「ゴールデン・レトリーバー」があることを確認) https://www.anicom-sompo.co.jp/doubutsu_pedia/node/1377
- Boerkamp KM, Teske E, Boon LR, Grinwis GCM, van den Bossche L, Rutteman GR. "Estimated incidence rate and distribution of tumours in 4,653 cases of archival submissions derived from the Dutch golden retriever population." BMC Veterinary Research, 2014, 10, 34. (確認日 2026-09-02) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3914708/
- アニコム損害保険『家庭どうぶつ白書2025』第2部 第4章「どうぶつの寿命」表2-4-2「犬種別の平均寿命(2023年度)」(66ページ) (確認日 2026-10-02。白書PDF原本を取得し表の行を照合。ゴールデン・レトリーバー/大型/10.7。集計の対象と方法の注は67ページ。**犬種別の集計頭数は白書に掲載がない**) https://www.anicom-page.com/hakusho/book/pdf/book_202512_2_4.pdf
この記事について
内容確認日: 2026-09-02(最後に出典を確かめ直した日。章ごとの確認日は本文と出典の欄のとおりです)
本記事は一般的な参考情報であり、獣医療行為やその代替ではありません。うちの子の体調で気になることがあるときは、かかりつけの獣医師にご相談ください。
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