犬の門脈シャント|生まれつきの血管の走り方と、名前が挙がる犬種・家系の記録
内容確認日 2026-09-06・うちのこ家系図 読みもの

目次
「門脈シャント」という言葉を、健診や検査の説明で初めて聞いたという方もいるかもしれません。これは、生まれつき血液の流れ方が一般的な犬と違うという、血管の状態を指す言葉です。この記事では、この体質がどういうものか、どの犬種で報告が多いとされているか、そして家系でどんな記録を残せるかを、一次情報をもとに整理します。
門脈シャントとは|血液が肝臓を通らずに流れてしまう血管の状態
要点: 門脈シャント(門脈体循環シャント)は、本来なら肝臓を通って処理されるはずの血液が、生まれつきの血管の走り方によって肝臓を経由せずに全身へ流れてしまう状態です。MSD獣医マニュアルは、これを犬でもっとも多い先天性の肝臓の異常だとしています。
門脈シャント(英語ではPortosystemic Shunt、略してPSSとも呼ばれます)は、消化管から肝臓へ向かうはずの血液の通り道(門脈)が、生まれつきの血管の走り方によって、肝臓を経由せずに全身の血流に合流してしまう状態を指します。MSD獣医マニュアルは、「門脈シャントは、もっとも多い先天性の肝臓の異常である」と説明しています(MSD Veterinary Manual「Congenital and Inherited Anomalies of the Liver in Animals」)。多くの場合、単一の血管(肝臓の外側を通る「肝外」型か、肝臓の内側を通る「肝内」型のどちらか)が関わっているとされています(同上)。
先天性と後天性は別の話
要点: この記事で扱うのは、生まれつきの血管の走り方によって起こる先天性の門脈シャントです。後天性のものは、別の病気が原因で新しい血管ができてしまう、まったく別の状態です。
門脈シャントには、生まれつきのもの(先天性)と、あとから起こるもの(後天性)の2種類があります。MSD獣医マニュアルは、後天性の門脈シャント(Acquired Portosystemic Shunt)について、「門脈の血圧が高くなる状態(門脈圧亢進症)に続発して形成される、異常な血管である」と説明し、慢性的な肝臓の病気や、門脈の血栓など、さまざまな原因によって門脈圧亢進が起きてから4〜6週間ほどで形成されると述べています(MSD Veterinary Manual「Acquired Portosystemic Shunts in Small Animals」)。
つまり、後天性のものは「もともとあった血管が、別の病気の結果として変化した」状態であるのに対し、この記事で扱う先天性の門脈シャントは「生まれたときから、血管の走り方そのものが一般的な犬と違っていた」状態です。同じ「門脈シャント」という言葉が使われていても、成り立ちがまったく異なる、別の話だということを押さえておく必要があります。
体格によって報告される型が違う|「肝外」と「肝内」という言葉の意味

要点: MSD獣医マニュアルによれば、肝臓の外側を通る「肝外シャント」は主に小型・トイ犬種で、肝臓の内側を通る「肝内シャント」は主に大型犬種で、より多く報告されているとされています。
先天性の門脈シャントは、血管がどこを通っているかによって「肝外シャント」と「肝内シャント」に分けられます。MSD獣医マニュアルは次のように説明しています。
Extrahepatic shunts are more common in toy breeds (eg, Yorkshire Terriers, Cairn Terriers, Havanese, Maltese, Pugs, and Miniature Schnauzers); intrahepatic shunts are more common in large breeds (eg, Irish Wolfhounds, Labrador and Golden Retrievers, Australian Cattle Dogs, and Old English Sheepdogs). (日本語訳:肝外シャントは、ヨークシャー・テリア、ケアーン・テリア、ハバニーズ、マルチーズ、パグ、ミニチュア・シュナウザーなどのトイ犬種でより多くみられる。肝内シャントは、アイリッシュ・ウルフハウンド、ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバー、オーストラリアン・キャトル・ドッグ、オールド・イングリッシュ・シープドッグなどの大型犬種でより多くみられる) (出典: MSD Veterinary Manual「Congenital and Inherited Anomalies of the Liver in Animals」)
同じ資料は、肝外シャントの多くが門脈(またはその分枝)と後大静脈または奇静脈のあいだで生じ、肝内シャントの多くは、胎児期に本来閉じるはずの血管(静脈管)や、門脈の分枝と肝静脈のあいだの通り道が閉じきらずに残ることで生じると説明しています(同上)。「肝外」「肝内」という言葉は、単に体の中のどこを血液が通っているかを示す位置の違いであり、体格によって報告されやすい型が異なる、という傾向として資料に書かれています。なお、猫でもペルシャで報告があるとされています(同上)。
名前が挙がる犬種|症例数と年代範囲つきで
要点: 獣医大学病院が症例を報告する共同データベースを対象にした原著論文(Tobias & Rohrbach, 2003)は、1980年から2002年までの22.2年間に、2,400頭の犬でこの体質の診断を報告しています。犬全体での診断の割合は0.18%、混血犬では0.05%でした。もっとも高い割合が報告された犬種は、ハバニーズ・ヨークシャー・テリア・マルチーズ・ダンディ・ディンモント・テリア・パグでした。
犬種と門脈シャントの関係を分母つきで調べた原著論文に、Tobias & Rohrbach(2003)があります。この研究は、1980年1月1日から2002年2月28日までの22.2年間に、獣医大学病院が症例を報告する共同データベース(Veterinary Medical Database、VMDB)へ報告された2,400頭の犬を対象にした後ろ向き研究です(Tobias & Rohrbach, 2003)。抄録の本文はデータベースに報告した施設を「獣医大学病院」とだけ書いており、国は明示していません。
この研究では、門脈シャントの診断が報告された割合は、犬全体で0.18%、混血犬に限ると0.05%だったとされています。診断の割合は1980年の1万頭あたり5頭から、2001年には1,000頭あたり5頭へと増加していました(同上)。もっとも診断の総数が多かったのはヨークシャー・テリアでした。そして、その犬種としてVMDBに記録された頭数のうち門脈シャントと診断された頭数の割合がもっとも高かったのは、ハバニーズ(3.2%)、ヨークシャー・テリア(2.9%)、マルチーズ(1.6%)、ダンディ・ディンモント・テリア(1.6%)、パグ(1.3%)の順でした(同上)。33犬種が、混血犬と比べて統計的に高い可能性が示されたとも報告されています(同上)。
ここで示した「割合」は、その犬種の中で門脈シャントと診断された頭数の比率(proportion)であり、研究内で計算されたオッズ比そのものではありません。この体質でもっとも報告が多い犬種の一つであるヨークシャー・テリアについて、この犬種での語られ方や、生まれつきの血管の走り方の詳しい紹介はこの犬種の遺伝病をまとめた記事に譲ります。同じくリストに挙がるマルチーズについてはマルチーズで報告されている体質でも触れています。
どう気づかれるか|血液検査で見る項目名

要点: MSD獣医マニュアルは、この体質のある動物でみられる検査所見として、赤血球が小さくなる変化(小球性)、尿素窒素(BUN)やクレアチニンが低いこと、肝臓の酵素の値の変化などを挙げています。総胆汁酸(TSBA)やアンモニアの値も、同じ資料が検査所見として名前を挙げている項目です。値の読み方や診断の進め方は、うちの子を診ている獣医師の領域です。
MSD獣医マニュアルは、門脈シャントのある犬では「血液検査で肝臓の酵素の上昇や、赤血球の小球性が確認されることがある」と述べています(MSD Veterinary Manual「Congenital and Inherited Anomalies of the Liver in Animals」)。
同じMSD獣医マニュアルのうち、門脈体循環血管奇形(PSVA)を扱うページは、この体質のある動物でみられる検査所見をより細かく列挙しています。赤血球が小さくなること(平均赤血球容積が低い)、尿素窒素(BUN)とクレアチニンが低いこと、肝臓の酵素の活性が正常からわずかに高い程度であること、といった項目です(MSD Veterinary Manual「Portosystemic Vascular Malformations in Small Animals」の Portosystemic Vascular Anomalies/Clinical Signs 節)。同じ節では、空腹時と食後の総胆汁酸(TSBA)の値や、アンモニアの値も、この体質でみられる検査所見として挙げられています(同上)。
ここで紹介したのは、資料が「この体質のある動物でみられる」として名前を挙げている検査の項目です。どの値がどうなっていたら何を疑うのか、どこから先を検査で確かめるのかという読み方は、うちの子を診ている獣医師の領域なので、この記事では扱いません。健診でどの項目を、どのくらいの頻度で確認するかという一般的な考え方は犬の健康診断|年に何回受けるかの考え方と、結果の残し方にまとめています。
家系でできること

生まれつきの血管の走り方は、うちの子1頭だけを見ていてもわかりません。手がかりになるのは、健診の血液検査の結果や、両親犬・兄弟犬に同じような報告がなかったかという、家系の情報です。
- 健診で肝臓に関わる項目について何か指摘を受けたことがあるか(あれば日付とともに)
- 両親犬・兄弟犬について、お迎え元から聞いている健康情報(わかる範囲で)
- 生まれた犬舎(うちの子の実家)やお迎え元、誕生日、子犬期の発育の様子
うちのこ家系図では、血統書があってもなくても、わかる範囲の情報から家系図を作れます。健診の結果とあわせて、動物病院での問診の際に見せられる状態にしておくと、伝え漏れを防ぐ助けになります。遺伝子検査という選択肢について、種類や一般的な考え方は犬の遺伝子検査ガイド|種類・費用・何がわかるかで中立に解説しています。
よくある質問
Q. 治療にはどんな選択肢がありますか?
治療の選択肢は、うちの子の状態を見ている獣医師が判断する領域です。この記事では扱いません。気になる様子があれば、自己判断せず獣医師にご相談ください。
Q. うちの子の犬種は、この記事に挙げられた犬種に入っていません。関係ないですか?
Tobias & Rohrbach(2003)の研究では33犬種で統計的に高い可能性が示されたとされており、この記事で名前を挙げたのはそのうち報告割合が特に高かった一部です。挙げられていない犬種でも報告はありえます。気になる場合は、健診の際にかかりつけの獣医師に相談してください。
Q. 肝外シャントと肝内シャントで、何か違いはあるのですか?
MSD獣医マニュアルは、血管がどこを通っているかという位置の違いとして両者を説明しており、体格によって報告されやすい型に傾向があるとされています。それぞれの状態の詳しい違いや対応は、うちの子を診ている獣医師が判断する領域です。
まとめ|生まれつきの血管の走り方という体質
- 門脈シャントは、血液が肝臓を経由せずに全身へ流れてしまう、生まれつきの血管の状態。MSD獣医マニュアルは犬でもっとも多い先天性の肝臓の異常だとしている
- 先天性と後天性はまったく別の成り立ち。後天性は別の病気の結果として起こる
- 肝外シャントは小型・トイ犬種、肝内シャントは大型犬種でより多く報告されるとされている
- Tobias & Rohrbach(2003)の研究では、2,400頭・22.2年間のデータで、その犬種として記録された頭数のうち診断された頭数の比率が、ハバニーズ・ヨークシャー・テリア・マルチーズなどで高かった
- MSD獣医マニュアルは、この体質のある動物でみられる検査所見として、赤血球の小球性・BUNやクレアチニンの低下・総胆汁酸やアンモニアの値などを挙げている
生まれつきの血管の走り方は、うちの子を見ているだけではわかりません。健診の結果と、家系の記録を積み重ねていくことが、次の手がかりにつながります。
本記事は参考情報です。この記事は病気の診断・治療方針を示すものではありません。気になる様子があれば、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。 記事中のデータは2026年9月6日時点でMSD獣医マニュアル・NCBI(PubMed)を確認したものです。
出典・参考
- MSD Veterinary Manual(Merck Veterinary Manual)「Congenital and Inherited Anomalies of the Liver in Animals」 (確認日 2026-09-06。Chrome系UAでHTTP 200を取得しHTMLをテキスト抽出のうえ逐語照合。肝外/肝内シャントの体格による傾向・好発犬種の列挙・臨床検査所見の項目名を確認) https://www.msdvetmanual.com/digestive-system/congenital-and-inherited-anomalies-involving-the-digestive-system/congenital-and-inherited-anomalies-of-the-liver-in-animals
- MSD Veterinary Manual(Merck Veterinary Manual)「Portosystemic Vascular Malformations in Small Animals」(ページタイトルは Hepatic Portal Venous Hypoperfusion in Small Animals) (確認日 2026-09-07。Chrome系UAでHTTP 200を取得しHTMLをテキスト抽出のうえ逐語照合。Portosystemic Vascular Anomalies の Clinical Signs 節にある検査所見の列挙を確認。初稿の執筆報告§4はこのページを『404で到達不可』と記録していたが誤りで、実際は本記事が開いた Congenital and Inherited Anomalies of the Liver in Animals の本文中にある "see Portosystemic Vascular Malformations in Small Animals" のリンク先そのもの=ページ内リンクを1回たどれば到達できた〈帰属14条〉。なお同ページには療法食・生後6か月での検査推奨・手術・生存期間中央値といった層Aの記述が併記されているが、本記事はいずれも引用していない) https://www.msdvetmanual.com/digestive-system/hepatic-diseases-of-small-animals/hepatic-portal-venous-hypoperfusion-in-small-animals
- MSD Veterinary Manual(Merck Veterinary Manual)「Acquired Portosystemic Shunts in Small Animals」 (確認日 2026-09-06。Chrome系UAでHTTP 200を取得しHTMLをテキスト抽出のうえ逐語照合。先天性〈PSVA〉と後天性〈APSS〉の違いを確認) https://www.msdvetmanual.com/digestive-system/hepatic-diseases-of-small-animals/acquired-portosystemic-shunts-in-small-animals
- Tobias KM, Rohrbach BW "Association of breed with the diagnosis of congenital portosystemic shunts in dogs: 2,400 cases (1980-2002)" J Am Vet Med Assoc. 2003;223(11):1636-1639. PMID 14664452 (確認日 2026-09-06。NCBI eutils(efetch・XML)でPubMed収載の抄録全文をHTTP 200で取得し逐語照合。本文全文〈JAVMA〉には到達していないため、確認できたのは抄録の範囲) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14664452/
この記事について
内容確認日: 2026-09-06(この日時点の一次情報にもとづいています)
本記事は一般的な参考情報であり、獣医療行為やその代替ではありません。うちの子の体調で気になることがあるときは、かかりつけの獣医師にご相談ください。
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