猫の肥大型心筋症(HCM)|報告が多いとされる猫種と家系での備え
内容確認日 2026-09-02・うちのこ家系図 読みもの

目次
「メインクーンは心臓の病気になりやすいと聞いた」——猫種図鑑やSNSで、こうした話を見聞きしたことがある飼い主も多いのではないでしょうか。
この記事では、猫の肥大型心筋症(HCM)がどんな病気とされているか、どの猫種で報告が多いとされるか、遺伝子検査で何がわかり何がわからないかを、MSD獣医マニュアルと学術論文をもとに整理しました。診療の方針や治療法には踏み込まず、猫種×家系×検査でわかることに絞って解説します。
結論|肥大型心筋症とは
要点: 肥大型心筋症(HCM)は、心臓の左心室の壁が厚くなり硬くなる病気です。心臓の筋肉そのものの異常が原因とされています。犬で報告の多い僧帽弁閉鎖不全症とは別の病気です。
MSD獣医マニュアル(世界的に参照される獣医学の専門資料)は、肥大型心筋症について「心筋そのものの異常により、左心室が求心性に肥大することを特徴とする」と定義しています(確認日 2026-09-02)。左心室は心臓の中でも全身に血液を送り出す役割を持つ部屋で、その壁が厚く硬くなることで、血液の流れに影響が出ることがあるとされています。
なお、犬で報告の多い「僧帽弁閉鎖不全症」(犬の僧帽弁閉鎖不全症|好発犬種と家系での備え)は、心臓の弁の異常が中心の病気で、心筋そのものの異常であるHCMとは別の病気です。
報告が多いとされる猫種
要点: メインクーン・ラグドールでは、HCMに関わるとされる遺伝子変異が報告されています。このほかペルシャ・スフィンクス・ノルウェージャンフォレストキャット・ベンガル・ターキッシュバン・アメリカンショートヘア・ブリティッシュショートヘアなどでも、家系内での発症が報告されています。
MSD獣医マニュアルでは、「心臓の筋肉に関わる1つのサルコメア遺伝子(心臓ミオシン結合タンパク質C遺伝子)の変異が、メインクーンとラグドールで確認されている」と紹介されています(確認日 2026-09-02)。また、「HCMはペルシャ、スフィンクス、ノルウェージャンフォレストキャット、ベンガル、ターキッシュバン、アメリカン・ブリティッシュショートヘアを含む、多くの猫種で家系内発症(familial)が報告されている」とも解説されています(同上・確認日 2026-09-02)。
埼玉県獣医師会・東京都動物愛護相談センターの資料でも、メインクーン・ラグドールに加えて、アメリカンショートヘア・ブリティッシュショートヘア・スコティッシュフォールド・マンチカンが、報告が多いとされる猫種として挙げられています(確認日 2026-09-02)。スコティッシュフォールドにおける具体的な報告はスコティッシュフォールドの性格と特徴|折れ耳・毛色とかかりやすい病気、マンチカンにおける具体的な報告はマンチカンの性格と特徴|短い脚の理由とかかりやすい病気でも触れています。メインクーン・ラグドールなど、その他の猫種における詳しい解説は、今後の状況を見ながら専用記事を検討していきます。
遺伝との関係|原因遺伝子が特定されている猫種とそうでない猫種
要点: メインクーンについては、原因となる遺伝子変異まで特定されています。ただし「変異を持っている=必ず発症する」という単純な関係ではなく、変異の持ち方によって発症のしやすさが異なるとされています。
メインクーンのHCMについては、原因となる遺伝子変異まで研究で特定されています。2005年に発表された研究では、家系内でHCMが多く見られたメインクーンについて、猫の心臓ミオシン結合タンパク質C遺伝子(MYBPC3)に1塩基の変異(GからCへの変化)が見つかったことが報告されています(Meursら, Human Molecular Genetics, 2005・確認日 2026-09-02)。同研究では、これが「非ヒト種で自然発生した心筋症の原因変異としては初めての報告」であるとも述べられています(同上・確認日 2026-09-02)。
MSD獣医マニュアルでは、この変異(A31P)についてさらに、「この変異を両方の対立遺伝子に持つ(ホモ接合の)メインクーンが、主に臨床的に重要なHCMを発症する」と説明されています(確認日 2026-09-02)。つまり、変異を1つだけ持っている場合と、2つとも持っている場合とでは、発症のしやすさが異なるとされているということです。「変異が見つかった=その猫が発症する」と単純に言い切れるものではありません。
ラグドールでも、同じ心臓ミオシン結合タンパク質C遺伝子に関わる変異が報告されています(確認日 2026-09-02)。ただし、この記事で確認できた範囲では、その他多くの猫種における家系内発症については、原因となる特定の遺伝子変異までは特定されていないとされています。
「指摘されてすぐ深刻」とは限らない
要点: HCMは、軽度から中等度であれば、症状が全くない場合が多いとされています。重度になっても症状が出ないまま経過することもあり、心雑音がない猫も一定数いるとされています。
「健診で心雑音を指摘された」——それは、その日から深刻な状態が始まるという知らせでは必ずしもありません。MSD獣医マニュアルでは、「HCMを持つ多くの猫、特に軽度から中等度の病態の猫は、臨床症状を示さない」と説明されています(確認日 2026-09-02)。さらに、「重度の病態に進行した猫であっても症状を示さないことがあるが、通常はその後、左心不全、全身性血栓塞栓症、突然死のいずれかに至る」とも述べられており、経過には幅があることがうかがえます(同上・確認日 2026-09-02)。
身体検査では、収縮期の心雑音など心音の異常がしばしば見られるとされる一方で、「HCMを持つ猫の少なくとも3分の1には、心雑音が認められない」とも解説されています(確認日 2026-09-02)。つまり、心雑音の有無だけでHCMの有無を判断できるものではありません。この記事では、症状のチェックリストは作りません。気になる様子があれば、自己判断せず動物病院に相談することが基本です。
家系(両親・兄弟)の情報が手がかりになる理由
要点: HCMは家系内で発症が報告されている猫種が複数あります。両親猫・兄弟猫の情報は、うちの子を理解する手がかりのひとつになり得ます。
メインクーンのように原因となる遺伝子変異が特定されている猫種では、両親猫がその変異を持っているかどうかが、うちの子を理解する手がかりのひとつになり得ます。また、原因遺伝子が特定されていない猫種であっても、「家系内発症」が報告されている以上、両親猫・兄弟猫にHCMの指摘があったかどうかという情報は参考になり得ます。
両親猫の遺伝子検査の結果(メインクーンなら変異の有無)や、健診で心雑音を指摘された日付は、うちのこ家系図の両親・うちの子それぞれの欄に書き添えておけます。将来、同じ実家(キャッテリー)で生まれた兄弟猫にHCMの報告があったと分かれば、それも手がかりのひとつになるでしょう。
記録という備え
要点: 日々の様子や健診の結果を記録として残しておくことも、備えのひとつです。
体重や食欲、呼吸の様子、元気があるかどうかといった日々の観察と、健診の結果を記録として残しておくことも、備えのひとつです。うちのこ家系図の健康手帳には、こうした日々の記録を、家系の情報とあわせて残しておけます。記録全体の残し方は犬・猫の健康手帳とは|何を書く?紙とアプリの選び方でも紹介しています。
検査という選択肢
要点: メインクーンなど、原因となる遺伝子変異が特定されている猫種については、遺伝子検査でその変異の有無を調べられる場合があります。検査でわかることには限りがあります。
メインクーンのように原因となる遺伝子変異まで特定されている猫種については、遺伝子検査でその変異を持っているかどうかを調べられる場合があります。ただし、前述のとおり「変異を持っている=必ず発症する」という単純な関係ではなく、検査結果だけでその猫の将来を断定できるものではありません。検査の種類・何がわかるかについては猫の遺伝子検査ガイド|種類・費用・何がわかるかで詳しく解説しています。受けるかどうかは、かかりつけの獣医師と相談して決める事柄です。
よくある質問
Q. うちの子は無症状ですが、大丈夫でしょうか?
この記事では、症状の有無から病気かどうかを判定するチェックリストは示しません。MSD獣医マニュアルでも、軽度から中等度のHCMでは症状が全くない場合が多いと解説されています。心配な場合は、自己判断せず、健診の際にかかりつけの獣医師に相談してください。
Q. 治療法について知りたいです。
この記事では、治療方針や投薬、検査の頻度については扱いません。うちの子の状態に応じた対応は、かかりつけの獣医師と相談して決めることになります。
Q. シニアになってから見つかることはありますか?
年齢を重ねてからの健診で見つかることもあるとされています。シニア期の猫の健康については猫のシニア期はいつから?サイズ別の目安と暮らしの変化でも紹介しています。
まとめ|猫種の傾向を知り、家系の記録につなげる
- 肥大型心筋症(HCM)は、心筋そのものの異常により左心室が厚く硬くなる病気。犬の僧帽弁閉鎖不全症とは別の病気
- メインクーン・ラグドールでは原因遺伝子(心臓ミオシン結合タンパク質C遺伝子)の変異が報告されている。ペルシャ・スフィンクス等、複数の猫種で家系内発症が報告されている
- メインクーンの変異は、両方の対立遺伝子に持つかどうかで発症のしやすさが異なるとされ、「変異があれば必ず発症」ではない
- 症状が全くないまま経過する猫も多く、心雑音がない猫も一定数いる。症状チェックリストで判断できるものではない
- 両親猫・兄弟猫の情報は、うちの子を理解する手がかりになり得る。家系の記録を残しておくことが備えになる
「メインクーンだから」「心雑音があったから」と一喜一憂するより、わかる範囲の家系情報と日々の記録を積み重ねておくことが、いざというときの手がかりになります。
本記事は参考情報です。病気に関する記述は発症を予測・診断するものではありません。最終判断は獣医師にご相談ください。 記事中のデータは2026年9月2日時点でMSD獣医マニュアル・学術論文・各公式サイトを確認したものです。
出典・参考
- MSD Veterinary Manual(Merck Veterinary Manual)"Hypertrophic Cardiomyopathy in Dogs and Cats" (確認日 2026-09-02) https://www.msdvetmanual.com/circulatory-system/cardiomyopathy-in-dogs-and-cats/hypertrophic-cardiomyopathy-in-dogs-and-cats
- Meurs KM, Sanchez X, David RM, et al. "A cardiac myosin binding protein C mutation in the Maine Coon cat with familial hypertrophic cardiomyopathy." Human Molecular Genetics, 2005, 14(23), 3587-3593. (確認日 2026-09-02) https://academic.oup.com/hmg/article/14/23/3587/559449
- 公益社団法人埼玉県獣医師会「猫の遺伝性疾患について」 (確認日 2026-09-02。原文列はguardian_batch10B_2026-09-02.mdの照合結果を転記。guardianが2026-09-02にrecheckで原典と再照合済み) https://www.saitama-vma.org/topics/%E7%8C%AB%E3%81%AE%E9%81%BA%E4%BC%9D%E6%80%A7%E7%96%BE%E6%82%A3%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/
- 東京都動物愛護相談センター「あなたに合った猫を迎えよう〜猫種の特徴と遺伝性疾患編」 (確認日 2026-09-02。原文列はguardian_batch10B_2026-09-02.mdの照合結果を転記。guardianが2026-09-02にrecheckで原典と再照合済み) https://wannyan.metro.tokyo.lg.jp/cat-column2/
この記事について
内容確認日: 2026-09-02(この日時点の一次情報にもとづいています)
本記事は一般的な参考情報であり、獣医療行為やその代替ではありません。うちの子の体調で気になることがあるときは、かかりつけの獣医師にご相談ください。
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