犬種と健康

犬の僧帽弁閉鎖不全症|好発犬種と家系での備え

内容確認日 うちのこ家系図 読みもの

小型犬の心臓の様子をやさしく見守る飼い主。僧帽弁閉鎖不全症は小型犬で報告が多いとされる心臓の病気
目次
  1. 1僧帽弁閉鎖不全症とは
  2. 2報告が多いとされる犬種
  3. 3遺伝との関係で分かっていること
  4. 4「指摘されてすぐ深刻」とは限らない
  5. 5家系でできる備え|両親・兄弟犬の心臓の記録
  6. 6検査・健診という選択肢
  7. 7よくある質問
  8. 8まとめ|家系の情報が、経過を見守る手がかりになる

健診で「心臓の音に少し雑音がありますね」と言われた——多くの小型犬の飼い主さんが、一度は経験する場面ではないでしょうか。うちの子の母犬がこの病気だったと聞いた、という方もいるかもしれません。

この記事では、犬の心臓病の中でもっとも多いとされる「僧帽弁閉鎖不全症」について、どんな病気なのか、どの犬種で報告が多いとされるのか、遺伝との関係で分かっていることは何かを、MSD獣医マニュアルと学術論文をもとに整理しました。診断や治療の判断はすべて獣医師にゆだねるべき領域のため、この記事では踏み込みません。かわりに、家系の情報という切り口から、この病気とどう向き合っていけるかをお伝えします。

僧帽弁閉鎖不全症とは

要点: 僧帽弁閉鎖不全症は、心臓の中で血液の逆流を防いでいる弁(僧帽弁)が変性し、うまく閉じなくなる病気です。犬の心臓病の中でもっとも多いとされ、加齢とともに報告が増えるとされています。

心臓の中には、血液が正しい方向にだけ流れるよう働く「弁」がいくつかあります。そのうちのひとつが、左心房と左心室の間にある僧帽弁です。海外で広く参照される獣医学の専門資料(MSD Veterinary Manual)によると、僧帽弁閉鎖不全症(変性性弁膜症)は「犬においてもっとも多い心臓病で、この動物種の心血管疾患のおよそ75%を占める」と紹介されています(MSD Veterinary Manual・確認日 2026-09-02)。学術論文でも、この病気は「家庭犬におけるもっとも一般的な心臓病であり、心臓死の原因」とされています(O'Brien, Beijerink & Wade, Animal Genetics, 2021・確認日 2026-09-02)。

この病気では、心臓の弁そのものが厚くなる変化が起こるとされ、「弁がうまく閉じなくなることで血流が乱れ、血液が心房へと逆流し、心房内の血液量と大きさが増える」と説明されています。僧帽弁でこれが起こると、「肺の毛細血管の血圧が上昇し、その圧が高くなると肺に水がたまる」ことがあるとされています(同上・確認日 2026-09-02)。

つまり、僧帽弁閉鎖不全症は「弁の変性→血液の逆流→心臓や肺への負担」という流れで進んでいく病気だと理解しておくと、健診で雑音を指摘されたときの受け止め方の助けになります。進行の程度や治療の要否は、獣医師の検査によって判断される領域です。

報告が多いとされる犬種

要点: 僧帽弁閉鎖不全症は、高齢の小型犬でより多く報告されるとされています。キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルとダックスフンドでは遺伝性が指摘されており、マルチーズ・チワワなど他の小型犬種でも報告が知られています。

MSD Veterinary Manualでは、「この病気は加齢と犬種に関連しており」「高齢の小型犬でより多く見られる」と紹介されています(確認日 2026-09-02)。その中でも、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルとダックスフンドについては、「遺伝性であると考えられている」と明記されています(同上・確認日 2026-09-02)。特にキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルは、この病気の好発犬種としてしばしば取り上げられる犬種ですが、犬種固有の詳しい話はキャバリアの遺伝病・かかりやすい病気と家系での備えに譲り、この記事では好発犬種のひとつとしての紹介にとどめます。キャバリアを片方の親に持つミックス犬(キャバプーなど)についても、同じ体質を受け継ぐ可能性があるという考え方は、キャバプーの性格と特徴|サイズ・寿命と両親系統の健康で紹介しています。

そのほかの小型犬種でも、僧帽弁閉鎖不全症の報告は知られています。マルチーズについては、マルチーズの遺伝病|心臓・ひざと家系での備えで犬種紹介記事をもとに詳しく解説しています。チワワについても、チワワの水頭症・パテラ|家系で見抜く病気で、心臓のリスクにふれています。うちの子の犬種の記事もあわせてご覧ください。

いずれの犬種であっても、「その犬種だから必ず発症する」という意味ではなく、報告が多いとされる傾向として受け止めることが大切です。

遺伝との関係で分かっていること

要点: キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルとダックスフンドでは、遺伝性があると考えられています。ただし、具体的にどの遺伝子が関わるかまでは、当サイトで確認できる範囲では特定されていません。

遺伝との関係について、一次ソースで確認できた範囲をお伝えします。MSD Veterinary Manualでは、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルとダックスフンドにおいて、この病気が「遺伝性であると考えられている」と紹介されています(確認日 2026-09-02)。

学術論文でも、僧帽弁閉鎖不全症(変性性僧帽弁疾患)の遺伝的な背景を扱った研究が進められていますが、当サイトで確認できたアブストラクトの範囲では、特定の遺伝子や検査方法についての確定的な記述までは確認できていません。「加齢とともに多くの犬で報告される病気」であることと、「一部の犬種では遺伝性が指摘されている」ことの両方が、現時点で一次ソースから言える範囲です。断定的な遺伝の仕組みについては、今後の研究の進展を待つ必要があります。

「指摘されてすぐ深刻」とは限らない

要点: 健診で心臓の雑音を指摘されても、それがすぐに深刻な状態を意味するわけではありません。血液の逆流がある犬のうち、心不全まで進むのは一部にとどまるとされています。

「健診で心雑音を指摘された」という経験は、小型犬の飼い主さんにとって珍しいことではありません。MSD Veterinary Manualでは、「僧帽弁の逆流がある犬のうち、心不全まで進行するのはおよそ3割程度」と紹介されています(確認日 2026-09-02)。つまり、逆流が見つかったからといって、必ずしも深刻な状態へ進むとは限らないということです。

進行した場合には、「左側の心不全が起こることがあり、発症した犬は動くこと・運動を嫌がる、呼吸が苦しそうになる、咳が出るといった様子が見られることがある」とされています(同上・確認日 2026-09-02)。ただし、こうした様子がどの程度のもので、どう対応すべきかは、獣医師の診察・検査によって個別に判断される領域です。自己判断で経過を決めず、健診での指摘は継続的な観察のきっかけとして受け止めるのがよいでしょう。

病気の進み具合を表す段階分けの考え方があることも知られていますが、これは獣医師が検査を通じて判定する専門的な指標です。飼い主が様子だけを見て自己判定できるものではありません。

家系でできる備え|両親・兄弟犬の心臓の記録

要点: 僧帽弁閉鎖不全症は加齢とともに報告が増える病気のため、両親犬や兄弟犬に同じ指摘を受けた経験があるかどうかという情報が、経過を見守るうえでの手がかりになることがあります。

僧帽弁閉鎖不全症のように、加齢とともに報告が増える病気については、その子1頭だけを見ていても、家系の中でどんな傾向が伝わってきたかまでは分かりません。両親犬や兄弟犬が、健診で同じような雑音を指摘されたことがあるかどうかという情報は、日々の健康管理を考えるうえでの参考材料になることがあります。

うちのこ家系図では、うちの子の健診結果や体調の変化を、日々の記録として残していくことができます。両親犬・兄弟犬について分かる範囲の健康情報も、家系図に書き添えておけます。健診の際に家系図を見せられる状態にしておくと、獣医師への情報共有もスムーズになります。

心臓の病気について正しく知っておくことは、必要以上に不安がることでも、油断することでもありません。落ち着いて経過を見守るための土台として、記録を積み重ねていきませんか。

検査・健診という選択肢

要点: 定期的な健診での聴診は、心臓の状態の変化に気づく基本的な手段です。遺伝子検査でこの病気そのものを判定できるかどうかは、犬種や検査会社によって扱いが異なります。

僧帽弁閉鎖不全症は、聴診による心雑音の発見から気づかれることが多い病気です。ペット保険と先天性・遺伝性疾患の関係についてはペット保険と先天性疾患・遺伝性疾患|約款の見方で、遺伝子検査でわかること・わからないことの全体像については犬の遺伝子検査ガイド|特定の検査会社に偏らない中立解説で、それぞれ詳しく解説しています。健診の頻度や検査の要否は、うちの子の年齢・犬種・持病の有無などをふまえて、かかりつけの獣医師にご相談ください。

よくある質問

Q. 健診で心雑音を指摘されました。小型犬に多い心臓の病気と聞きましたが、どんな病気で、どの犬種に多いのでしょうか?

犬の心臓病の中でもっとも多いとされる「僧帽弁閉鎖不全症」の可能性があります。加齢とともに、特に高齢の小型犬で報告が多いとされ、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルとダックスフンドでは遺伝性が指摘されています。マルチーズ・チワワなど他の小型犬種でも報告は知られています。実際にどんな状態かは、獣医師の検査によって判断されます。

Q. うちの子の母犬が僧帽弁閉鎖不全症だったと聞きました。うちの子も気をつけたほうがいいのでしょうか?

一部の犬種では遺伝性が指摘されているため、両親犬の健康情報は、日々の健康管理を考えるうえでの参考になることがあります。ただし、両親が発症したからといって必ず同じ病気になるとは限りません。気になる場合は、健診の際にその情報を獣医師に伝えてみてください。

Q. 心雑音を指摘されたら、すぐに治療が必要ですか?

血液の逆流が見つかった犬のうち、心不全まで進行するのは一部にとどまるとされています。治療の要否や時期は、獣医師の検査・診断によって個別に判断される領域です。自己判断はせず、指示された頻度で経過観察を続けることが基本です。

Q. 遺伝子検査でこの病気がわかりますか?

現時点で、この病気の遺伝的な仕組みは研究が進められている段階であり、当サイトで確認できる範囲では、特定の遺伝子検査で確定的に判定できるとする一次資料は見つかっていません。遺伝子検査全般でわかること・わからないことについては、犬の遺伝子検査ガイドで解説しています。

まとめ|家系の情報が、経過を見守る手がかりになる

  • 僧帽弁閉鎖不全症は、犬の心臓病の中でもっとも多いとされる病気で、加齢とともに報告が増える
  • 高齢の小型犬で報告が多く、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルとダックスフンドでは遺伝性が指摘されている
  • 血液の逆流が見つかっても、心不全まで進むのは一部にとどまるとされる。指摘されてすぐ深刻とは限らない
  • 病気の進行段階は獣医師が検査で判定する専門的な指標で、自己判定はできない
  • 両親犬・兄弟犬の心臓の情報は、経過を見守るうえでの手がかりになることがある
  • うちの子の健診結果や体調の記録は、家系図という形でも残せる

うちの子の心臓の記録を、今日から少しずつ残していきませんか。


本記事は参考情報です。この記事は病気の診断・治療方針を示すものではありません。心臓の状態や治療の要否については、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。 記事中のデータは2026年9月2日時点で各公式サイトを確認したものです。

出典・参考

この記事について

内容確認日: (この日時点の一次情報にもとづいています)

本記事は一般的な参考情報であり、獣医療行為やその代替ではありません。うちの子の体調で気になることがあるときは、かかりつけの獣医師にご相談ください。