犬種と健康 更新
犬の僧帽弁閉鎖不全症|好発犬種と家系での備え
うちのこ家系図 編集部・更新 ・内容確認日 2026-09-02

目次
うちの子の母犬がこの病気だったと聞いた。健診で心臓の音のことを言われて、病名を調べている。——この記事にたどり着くきっかけは、人によって違うと思います。
この記事では、犬の心臓病の中でもっとも多いとされる「僧帽弁閉鎖不全症」について、どんな病気なのか、どの犬種で報告が多いとされるのか、遺伝との関係で分かっていることは何かを、MSD獣医マニュアルと学術論文をもとに整理しました。診断や治療の判断はすべて獣医師にゆだねるべき領域のため、この記事では踏み込みません。かわりに、家系の情報という切り口から、この病気とどう向き合っていけるかをお伝えします。先にひとつ書いておくと、健診で聞こえた音が何を意味するかは、聴診だけで決まるものではありません。この記事は、うちの子の所見から病名を推し量るためのものではなく、この病気そのものを知るためのものです。
僧帽弁閉鎖不全症とは
要点: 僧帽弁閉鎖不全症は、心臓の中で血液の逆流を防いでいる弁(僧帽弁)が変性し、うまく閉じなくなる病気です。犬の心臓病の中でもっとも多いとされ、加齢とともに報告が増えるとされています。
心臓の中には、血液が正しい方向にだけ流れるよう働く「弁」がいくつかあります。そのうちのひとつが、左心房と左心室の間にある僧帽弁です。海外で広く参照される獣医学の専門資料(MSD Veterinary Manual)によると、僧帽弁閉鎖不全症(変性性弁膜症)は「犬においてもっとも多い心臓病で、この動物種の心血管疾患のおよそ75%を占める」と紹介されています(MSD Veterinary Manual・確認日 2026-09-02)。学術論文でも、この病気は「家庭犬におけるもっとも一般的な心臓病であり、心臓死の原因」とされています(O'Brien, Beijerink & Wade, Animal Genetics, 2021・確認日 2026-09-02)。
この病気では、心臓の弁そのものが厚くなる変化が起こるとされ、「弁がうまく閉じなくなることで血流が乱れ、血液が心房へと逆流し、心房内の血液量と大きさが増える」と説明されています。僧帽弁でこれが起こると、「肺の毛細血管の血圧が上昇し、その圧が高くなると肺に水がたまる」ことがあるとされています(同上・確認日 2026-09-02)。
つまり、僧帽弁閉鎖不全症は「弁の変性→血液の逆流→心臓や肺への負担」という流れで進んでいく病気だと理解しておくと、健診で雑音を指摘されたときの受け止め方の助けになります。進行の程度や治療の要否は、獣医師の検査によって判断される領域です。
報告が多いとされる犬種

要点: 僧帽弁閉鎖不全症は、高齢の小型犬でより多く報告されるとされています。キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルとダックスフンドでは遺伝性が指摘されており、マルチーズ・チワワなど他の小型犬種でも報告が知られています。
MSD Veterinary Manualでは、「この病気は加齢と犬種に関連しており」「高齢の小型犬でより多く見られる」と紹介されています(確認日 2026-09-02)。その中でも、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルとダックスフンドについては、「遺伝性であると考えられている」と明記されています(同上・確認日 2026-09-02)。特にキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルは、この病気の好発犬種としてしばしば取り上げられる犬種ですが、犬種固有の詳しい話はキャバリアの遺伝病・かかりやすい病気と家系での備えに譲り、この記事では好発犬種のひとつとしての紹介にとどめます。キャバリアを片方の親に持つミックス犬(キャバプーなど)についても、同じ体質を受け継ぐ可能性があるという考え方は、キャバプーとは?心臓・目・大きさ・性格で紹介しています。
そのほかの小型犬種でも、僧帽弁閉鎖不全症の報告は知られています。マルチーズについては、マルチーズがかかりやすい病気(心臓・ひざ・目と涙)の表で犬種紹介記事をもとに詳しく解説しています。チワワについても、チワワがなりやすい病気(水頭症・パテラ・心臓・気管)の表で、心臓のリスクにふれています。うちの子の犬種の記事もあわせてご覧ください。
いずれの犬種であっても、「その犬種だから必ず発症する」という意味ではなく、報告が多いとされる傾向として受け止めることが大切です。
遺伝との関係で分かっていること
要点: キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルとダックスフンドでは、遺伝性があると考えられています。ただし、具体的にどの遺伝子が関わるかまでは、当サイトで確認できる範囲では特定されていません。
遺伝との関係について、一次ソースで確認できた範囲をお伝えします。MSD Veterinary Manualでは、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルとダックスフンドにおいて、この病気が「遺伝性であると考えられている」と紹介されています(確認日 2026-09-02)。
学術論文でも、僧帽弁閉鎖不全症(変性性僧帽弁疾患)の遺伝的な背景を扱った研究が進められていますが、当サイトで確認できたアブストラクトの範囲では、特定の遺伝子や検査方法についての確定的な記述までは確認できていません。「加齢とともに多くの犬で報告される病気」であることと、「一部の犬種では遺伝性が指摘されている」ことの両方が、現時点で一次ソースから言える範囲です。断定的な遺伝の仕組みについては、今後の研究の進展を待つ必要があります。
心不全まで進むのはどのくらいとされているか

要点: 僧帽弁の逆流がある犬のうち、心不全まで進むのは一部にとどまるとされています。これは診断のついた犬の集団についての数字です。
この病気について、進み方の割合が資料に示されています。MSD Veterinary Manualでは、「僧帽弁の逆流がある犬のうち、心不全まで進行するのは約3割程度」と紹介されています(確認日 2026-09-02)。逆流が見つかった犬すべてが、そのまま心不全へ向かうわけではない、ということです。ただしこれは検査で逆流が確認された犬の集団についての数字で、うちの子がどうかを言うものではありません。
進行した場合には、「左側の心不全が起こることがあり、発症した犬は動くこと・運動を嫌がる、呼吸が苦しそうになる、咳が出るといった様子が見られることがある」とされています(同上・確認日 2026-09-02)。ただし、こうした様子がどの程度のもので、どう対応すべきかは、獣医師の診察・検査によって個別に判断される領域です。健診で何か言われたとき、それが何を意味し、次に何をするのかは、その場で獣医師に説明を聞いて決めることになります。
病気の進み具合を表す段階分けの考え方があることも知られていますが、これは獣医師が検査を通じて判定する専門的な指標です。飼い主が様子だけを見て自己判定できるものではありません。
家系でできる備え|両親・兄弟犬の心臓の記録

要点: 僧帽弁閉鎖不全症は加齢とともに報告が増える病気のため、両親犬や兄弟犬に同じ指摘を受けた経験があるかどうかという情報が、経過を見守るうえでの手がかりになることがあります。
僧帽弁閉鎖不全症のように、加齢とともに報告が増える病気については、その子1頭だけを見ていても、家系の中でどんな傾向が伝わってきたかまでは分かりません。両親犬や兄弟犬が、健診で同じような雑音を指摘されたことがあるかどうかという情報は、日々の健康管理を考えるうえでの参考材料になることがあります。
うちのこ家系図では、うちの子の健診結果や体調の変化を、日々の記録として残していくことができます。両親犬・兄弟犬について分かる範囲の健康情報も、家系図に書き添えておけます。健診の際に家系図を見せられる状態にしておくと、獣医師への情報共有もスムーズになります。
心臓の病気について正しく知っておくことは、必要以上に不安がることでも、油断することでもありません。落ち着いて経過を見守るための土台として、記録を積み重ねていきませんか。
検査・健診という選択肢

要点: 定期的な健診での聴診は、心臓の状態の変化に気づく基本的な手段です。遺伝子検査でこの病気そのものを判定できるかどうかは、犬種や検査会社によって扱いが異なります。
僧帽弁閉鎖不全症は、聴診による心雑音の発見から気づかれることが多い病気です。ペット保険と先天性・遺伝性疾患の関係についてはペット保険と先天性疾患・遺伝性疾患|約款の見方で、遺伝子検査でわかること・わからないことの全体像については犬の遺伝子検査でわかること・種類・費用で、それぞれ詳しく解説しています。健診の頻度や検査の要否は、うちの子の年齢・犬種・持病の有無などをふまえて、かかりつけの獣医師にご相談ください。
よくある質問
Q. 健診で心雑音を指摘されました。小型犬に多い心臓の病気と聞きましたが、どんな病気で、どの犬種に多いのでしょうか?
心雑音が何に由来するかは聴診だけでは決まらないため、うちの子の所見から病名をお伝えすることはこの記事ではできません。何が起きているかは、獣医師が検査を通じて判断します。そのうえで、質問にある「小型犬に多い心臓の病気」の説明としては、犬の心臓病の中でもっとも多いとされるのが僧帽弁閉鎖不全症です。加齢とともに、特に高齢の小型犬で報告が多いとされ、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルとダックスフンドでは遺伝性が指摘されています。マルチーズ・チワワなど他の小型犬種でも報告は知られています。
Q. うちの子の母犬が僧帽弁閉鎖不全症だったと聞きました。うちの子も気をつけたほうがいいのでしょうか?
一部の犬種では遺伝性が指摘されているため、両親犬の健康情報は、日々の健康管理を考えるうえでの参考になることがあります。ただし、両親が発症したからといって必ず同じ病気になるとは限りません。気になる場合は、健診の際にその情報を獣医師に伝えてみてください。
Q. 心雑音を指摘されたら、すぐに治療が必要ですか?
この記事から言えることはありません。何が必要かは、聴診だけでなく検査の結果とその子の状態を見て、獣医師が判断する領域だからです。健診で指摘があったときは、次に何をするのかをその場で確認してください。
Q. 遺伝子検査でこの病気がわかりますか?
現時点で、この病気の遺伝的な仕組みは研究が進められている段階であり、当サイトで確認できる範囲では、特定の遺伝子検査で確定的に判定できるとする一次資料は見つかっていません。遺伝子検査全般でわかること・わからないことについては、犬の遺伝子検査の解説で解説しています。
まとめ|家系の情報が、経過を見守る手がかりになる
- 僧帽弁閉鎖不全症は、犬の心臓病の中でもっとも多いとされる病気で、加齢とともに報告が増える
- 高齢の小型犬で報告が多く、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルとダックスフンドでは遺伝性が指摘されている
- 僧帽弁の逆流がある犬のうち、心不全まで進むのは一部にとどまるとされる(診断のついた犬の集団についての数字)
- 病気の進行段階は獣医師が検査で判定する専門的な指標で、自己判定はできない
- 両親犬・兄弟犬の心臓の情報は、経過を見守るうえでの手がかりになることがある
- うちの子の健診結果や体調の記録は、家系図という形でも残せる
うちの子の心臓の記録を、今日から少しずつ残していきませんか。
本記事は参考情報です。この記事は病気の診断・治療方針を示すものではありません。心臓の状態や治療の要否については、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。 記事中のデータは2026年9月2日時点で各公式サイトを確認したものです。
体重は、写真と一緒に 1 回で記録

画面はイメージです(架空の子の見本)。
出典・参考
- MSD Veterinary Manual(Merck Veterinary Manual)"Acquired Heart and Blood Vessel Disorders in Dogs"(Degenerative Valve Disease) (確認日 2026-09-02) https://www.merckvetmanual.com/dog-owners/heart-and-blood-vessel-disorders-of-dogs/acquired-heart-and-blood-vessel-disorders-in-dogs
- O'Brien MJ, Beijerink NJ, Wade CM. "Genetics of canine myxomatous mitral valve disease." Animal Genetics, 2021, 52(4), 409-421. (確認日 2026-09-02・アブストラクト冒頭部のみ確認) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34028063/
この記事について
内容確認日: 2026-09-02(最後に出典を確かめ直した日。章ごとの確認日は本文と出典の欄のとおりです)
本記事は一般的な参考情報であり、獣医療行為やその代替ではありません。うちの子の体調で気になることがあるときは、かかりつけの獣医師にご相談ください。
つづけて読む
マルチーズがかかりやすい病気は?心臓・ひざ・目と涙を保険の請求データの表で
マルチーズがほかの犬種より保険の請求の多い病気を、ある保険会社の白書の表とグラフにしました。心臓の弁膜症、ひざの十字靭帯、目と涙・耳の病気の概要と、年間診療費、病院へ行く目安を載せます。
よむ犬種と健康キャバリアの遺伝病・かかりやすい病気と家系での備え
キャバリアで報告が多いとされる僧帽弁閉鎖不全症・脊髄空洞症(キアリ様奇形)・目や膝の病気を、MSD獣医マニュアルと英国の一次診療データ論文をもとに整理。「指摘されてすぐ深刻とは限らない」という考え方、両親犬・兄弟犬の心臓の記録を家系図に残す備え方まで解説します。
よむ犬種と健康キャバリアの性格と特徴|歴史・被毛と暮らし方
キャバリア(キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル)はどんな犬か。中世の騎士を意味する名前の由来、人懐こく恐れ知らずとされる性格の傾向、長い垂れ耳と飾り毛のお手入れの基本まで一次情報をもとに解説。健康面の詳しい話は専用記事にまとめています。
よむ