ボーダーコリーの遺伝病|CL症・コリーアイ・MDR1と寿命・家系での備え
内容確認日 2026-09-04・うちのこ家系図 読みもの

目次
「実家(お迎え元)から『両親ともCL症クリア』と聞きました。それはどういう意味ですか」——ボーダーコリーを迎えた人からよく寄せられる相談です。この犬種で名前が挙がる遺伝性の体質には、原因遺伝子まで特定されているものが複数あります。この記事では、原著論文・学術データベースOMIAの公開情報で確認できた事実だけを材料に、CL症・目・薬との相性という切り口で整理します。診断・治療・手術・投薬・余命・治療費、繁殖の判断には踏み込みません。犬種の成り立ちや性格はボーダーコリーの性格と特徴|「賢い」の中身と家系の話にまとめています。
結論|CL症・目・薬との相性——3つの資料に名前が出てくる

要点: ボーダーコリーは、原因遺伝子が特定されている神経の体質(CL症)と、目の先天的な体質(コリーアイ異常)、薬の効き方に関わる体質(MDR1遺伝子変異)が、それぞれ別の資料で報告されている犬種です。どれも「この犬種で報告がある」という事実であって、うちの子が発症すると決まったわけではありません。
どの資料に何が書かれているかを並べると、次のとおりです。
- 学術誌Genomics(Melvilleら, 2005)——CL症(神経セロイドリポフスチン症)の原因変異を、ボーダーコリーで特定
- 学術データベースOMIA——CL症・コリーアイ異常(choroidal hypoplasia, NHEJ1関連)・TNS(trapped neutrophil syndrome)の犬種欄
- MDR1遺伝子変異——コリー系の牧羊犬種で報告される体質。犬種ごとの報告のされ方は専用記事にまとめている
順番は、この犬種で研究の蓄積がもっとも厚いCL症から、目・薬との相性と続けます。病名だけを横断的に並べた一覧は犬の遺伝病一覧|代表的な病気と犬種別の傾向にあります。
CL症(神経セロイドリポフスチン症)|原因変異が特定されている体質

要点: CL症(神経セロイドリポフスチン症・NCL)は、CLN5という遺伝子の変異が原因とされる常染色体潜性の体質です。Melvilleら(2005)がボーダーコリーでこの変異を特定しました。日本国内では2000年から2011年の12年間で27頭の発症例が報告されています。
「実家(お迎え元)から『両親ともCL症クリア』と聞きました。それはどういう意味で、記録にどう残せばいいですか」——まず、この体質そのものについて説明します。
Melvilleら(2005)は、ボーダーコリーの家系を対象にした遺伝子解析で、CLN5という遺伝子にナンセンス変異(Q206X)を見つけ、これがCL症の原因になっていると報告しました。学術データベースOMIAには、この体質が常染色体潜性——両親それぞれから原因となる変異を1つずつ、合計2つ受け継いだ場合に発症するとされる遺伝形式で登録されています(OMIA:001482-9615)。
どれくらい広がっているかについては、性質の違う数字が複数あるので、分けて読む必要があります。ひとつは、OMIAがMelvilleら(2005)の報告として紹介している数字で、オーストラリアのボーダーコリー集団のうち、原因となる変異(c.619C>T)を持つ遺伝子が占める割合=アレル頻度がおよそ3.5%とされています。これは「発症している犬の割合」ではなく、集団の遺伝子プールに占める変異型の割合を指します。もうひとつは保因者の割合で、Mizukamiら(2011)が日本国内のボーダーコリーを対象にした遺伝子型判定で、保因者(キャリア)の割合は8.1%だったと報告しています(Mizukamiら, J Vet Diagn Invest 2011)。ただし、この報告の抄録には調べた頭数が示されていません。アレル頻度と保因者頻度は数え方そのものが違う指標なので、この2つを同じ土俵に並べて比べることはできません。
発症例の数についても報告があります。Mizukamiら(2012)は、2000年から2011年までの12年間、国内のボーダーコリー集団を対象にした調査を報告しており、この期間に27頭の発症例が確認されたものの、調査期間の終盤にかけて減少傾向がみられたとしています(Mizukamiら, ScientificWorldJournal 2012)。この記事では、症状の一覧や進行の経過には触れません。気になる様子があれば、自己判断せず獣医師に相談してください。
「クリア/キャリア」はこの病気ではどう使われるか
要点: 検査結果は「原因となる変異を2つとも持たない=クリア」「1つだけ持つ=キャリア(保因)」という形で示されます。この記事ではCL症という病気の文脈でこの言葉を扱い、繁殖の判断には踏み込みません。
冒頭で紹介した「両親ともCL症クリア」という表現は、両親犬がこの検査で原因変異を持っていなかったという結果を指しています。「クリア/キャリア」という言葉が遺伝子検査全般でどう使われるかという一般論は犬の遺伝子検査ガイド|『キャリア(保因)』という考え方をやさしく理解するにまとめています。この記事では、CL症というこの犬種固有の体質の文脈でこの言葉を紹介するにとどめ、キャリア同士を交配させるべきかどうかという繁殖の判断には踏み込みません。気になる場合は、検査を実施した機関やかかりつけの獣医師に確認することをおすすめします。
目|コリーアイ異常として報告される先天的な体質

要点: コリーアイ異常(choroidal hypoplasia)は、脈絡膜という目の組織が生まれつき十分に発達しない先天的な体質です。学術データベースOMIAでは、コリー・ボーダーコリー・オーストラリアン・シェパード・シェットランド・シープドッグの4犬種でNHEJ1遺伝子の欠失が報告されている一方、この欠失が原因変異そのものなのかについては疑義も併記されています。
学術データベースOMIAには、この体質がNHEJ1という遺伝子の7.8kbの欠失に関連する常染色体潜性の体質として登録されており、この欠失はコリー・ボーダーコリー・オーストラリアン・シェパード・シェットランド・シープドッグの4犬種で報告されているとされています(Parkerら, 2007 の報告としてOMIA:000218-9615に記載)。同じOMIAのページでは、アメリカとイギリスのボーダーコリーのうち、この体質を持つ割合をおよそ2〜3%と見積もる報告(Loweら, 2003)も引用されています。
ただし同じOMIAのページには、この欠失が原因変異そのものではなく、原因のある場所に連鎖した目印にすぎない可能性を指摘する報告(Fredholmら, 2016)や、複数の要因が関わる可能性を示す記述もあります。検査で陽性・陰性が出ても実際の目の状態と一致しない場合がある、という意味なので、結果の読み方はかかりつけの獣医師や検査を実施した機関に確認してください。PRA(進行性網膜萎縮症)とは別の目の病気で、PRAについては犬の進行性網膜萎縮症|犬種別・家系で早期発見にまとめています。この記事では、名前と、原因遺伝子について報告されている範囲の紹介にとどめます。
薬との相性|MDR1遺伝子変異
要点: MDR1遺伝子変異は、コリー系の牧羊犬種で報告される体質で、一部の薬が体に強く作用することがあるとされています。この犬種での報告のされ方は専用記事にまとめています。
コリー系の犬種で話題になる体質のひとつに、MDR1遺伝子変異があります。この体質の仕組み、犬種ごとにどれくらい報告されているか、わかっていたら何ができるかは、検査機関が公開している一覧とあわせて犬のMDR1遺伝子変異とは|報告が多い犬種と、わかっていたら何ができるかで扱っています。
そのほかの体質と、寿命について言われていること、家系で備える

要点: TNS(trapped neutrophil syndrome)という体質も、この犬種で名前が挙がることがあります。平均寿命は、アニコム損保の白書の集計で12.9歳と紹介されています。家系で備えられることの中心は、両親犬・実家(お迎え元)の兄弟犬の検査結果を記録として残しておくことです。
このほか、TNS(trapped neutrophil syndrome)という体質も、学術データベースOMIAにボーダーコリーの名前とともに登録されています。原因はVPS13Bという遺伝子の変異とされ、OMIAには、Mizukamiら(2016)の報告として、日本国内のボーダーコリー500頭のうち原因変異アレルの頻度が5.9%だったと記載されています(OMIA:001428-9615)。この記事では、名前の紹介にとどめます。
犬種別の平均寿命を集計した『アニコム家庭どうぶつ白書2023』(2021年度データ)の犬種別一覧では、ボーダー・コリーは12.9歳とされています。同じ一覧の犬全体の平均は14.2歳です。白書はこの数字を、同社の保険を契約した犬(2008年4月〜2022年3月)をもとに作った生命表から出しており、0歳時点の平均余命が平均寿命にあたります。犬種別に載るのは契約頭数の多い上位40品種で、各犬種を何頭数えたかまでは書かれていません。保険に加入した犬という限られた集団にもとづく数字であり、うちの子の将来を予測するものではありません。
CL症という体質に立ち戻ると、家系で備えられることの中心は、両親犬・同じ実家(お迎え元)で生まれた兄弟犬に、検査結果や体質の記録がなかったかを確認しておくことです。血統書の読み方は血統書の見方にまとめており、そこから両親犬をたどることができます。聞き取れた検査結果はうちの子の健康記録をつける(無料)ところに残しておくと、あとから見返しやすくなります。
よくある質問
Q. 検査は受けるべきですか?
うちの子の状況をふまえて、かかりつけの獣医師と相談してください。検査の一般的な流れ・費用の目安は犬の遺伝子検査ガイドにまとめています。
Q. キャリア同士をかけあわせるとどうなりますか?
繁殖の判断については、この記事では扱いません。かかりつけの獣医師や、実家(お迎え元)に確認することをおすすめします。
Q. フィラリアの薬は大丈夫ですか?
MDR1遺伝子変異と薬の関係については犬のMDR1遺伝子変異とはにまとめています。個体差があるため、心配な場合はかかりつけの獣医師にご相談ください。
まとめ|原因遺伝子が特定されている体質が複数ある犬種
- CL症(神経セロイドリポフスチン症)——CLN5遺伝子の変異が原因(Melvilleら, 2005)。日本では2000〜2011年の調査で27頭の発症例、別の遺伝子型判定調査では調べた犬のうち保因者が8.1%と報告されている(調査頭数は抄録に記載なし)
- CL症の2つの数字は数え方が違う。アレル頻度はオーストラリアの集団に占める変異型遺伝子の割合、保因者頻度は日本の調査で調べた犬のうちキャリアだった割合。並べて比べられない
- コリーアイ異常——脈絡膜の先天的な体質。4犬種でNHEJ1遺伝子の欠失が報告されているが、それが原因変異そのものかには疑義も併記されている
- MDR1遺伝子変異——コリー系の犬種で話題になる体質(犬種ごとの報告のされ方は専用記事へ)
- TNS——名前が挙がる体質のひとつ。日本の500頭のうち変異アレル頻度5.9%という報告がある
- 『アニコム家庭どうぶつ白書2023』の集計では平均寿命12.9歳。保険契約のあった犬を対象にした数字
「クリア」「キャリア」という検査結果は、1枚の紙のままだと意味がつながりません。両親犬と、同じ実家(お迎え元)の兄弟犬の結果まで並べてはじめて、家系としての形が見えてきます。家系図に残してみませんか。
本記事は参考情報です。遺伝子検査の結果の読み方や、繁殖についての判断は、この記事の範囲外です。検査を実施した機関や、かかりつけの獣医師にご確認ください。 記事中のデータは2026年9月4日にPubMed収載の原著抄録・学術データベースOMIA・アニコム損保『アニコム家庭どうぶつ白書2023』のPDF原本で確認したものです。
出典・参考
- Melville SA, Wilson SM, Padgett-Coehlo GK, Muhle AC, O'Brien DP, Katz ML, Johnson GS, O'Brien PJ. "A mutation in canine CLN5 causes neuronal ceroid lipofuscinosis in Border collie dogs." Genomics 2005;86(3):287-294. (確認日 2026-09-04。NCBI eutils APIでPubMed抄録を取得し逐語照合) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16033706/
- OMIA(University of Sydney)「OMIA:001482-9615: Neuronal ceroid lipofuscinosis, 5 in Canis lupus familiaris (dog)」 (確認日 2026-09-04。HTMLを取得しgrepで逐語照合) https://omia.org/OMIA001482/9615/
- Mizukami K, Kawamichi T, Koie H, et al. "Neuronal ceroid lipofuscinosis in Border Collie dogs in Japan: clinical and molecular epidemiological study (2000-2011)." ScientificWorldJournal 2012;2012:383174. doi:10.1100/2012/383174 / https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22919312/ (確認日 2026-09-04。NCBI eutils APIでPubMed抄録を取得し逐語照合) https://doi.org/10.1100/2012/383174
- Mizukami K, Chang HS, Yabuki A, et al. "Novel rapid genotyping assays for neuronal ceroid lipofuscinosis in Border Collie dogs and high frequency of the mutant allele in Japan." J Vet Diagn Invest 2011;23(6):1131-1139. doi:10.1177/1040638711425590 / https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22362793/ (確認日 2026-09-04。NCBI eutils APIでPubMed抄録を取得し逐語照合。**抄録に調査頭数の記載はない**。EuropePMC APIでPMCIDなし・isOpenAccess N を確認、出版社PDFはHTTP 403で全文に到達できず、分母は確認できなかった) https://doi.org/10.1177/1040638711425590
- OMIA(University of Sydney)「OMIA:000218-9615: Choroidal hypoplasia, NHEJ1-related in Canis lupus familiaris (dog)」 (確認日 2026-09-04。旧称Collie eye anomaly。HTMLを取得しgrepで逐語照合。Inheritance/Molecular basis 節に、NHEJ1欠失の原因性への疑義と多因子性の可能性が明記されている) https://omia.org/OMIA000218/9615/
- OMIA(University of Sydney)「OMIA:001428-9615: Trapped Neutrophil Syndrome in Canis lupus familiaris (dog)」 (確認日 2026-09-04。HTMLを取得しgrepで逐語照合) https://omia.org/OMIA001428/9615/
- アニコム損害保険『アニコム家庭どうぶつ白書2023』第2部 第4章「寿命と死亡」表2-4-3「犬種別の平均寿命(2021年度)」(62ページ) (確認日 2026-09-04。白書PDF原本を取得しページ本文を逐語照合。ボーダー・コリー/中型/12.9、犬全体の平均寿命14.2歳。**犬種別の集計頭数は白書に掲載がない**) https://www.anicom-page.com/hakusho/book/pdf/book_202312_2_4.pdf
この記事について
内容確認日: 2026-09-04(この日時点の一次情報にもとづいています)
本記事は一般的な参考情報であり、獣医療行為やその代替ではありません。うちの子の体調で気になることがあるときは、かかりつけの獣医師にご相談ください。
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