遺伝のはなし

犬のMDR1遺伝子変異|薬が効きすぎる体質と犬種

内容確認日 2026-09-01うちのこ家系図 読みもの

動物病院でMDR1遺伝子変異について伝える飼い主。特定の犬種で報告される薬への反応しやすさを共有している
目次
  1. 1MDR1遺伝子変異とは|「薬の出口」がうまく働かない体質
  2. 2報告が多い犬種|コリー系を中心とした牧羊犬種
  3. 3遺伝のしかたと結果の読み方
  4. 4検査でわかること
  5. 5わかっていたら何ができるか|かかりつけの獣医さんに伝えておくという備え
  6. 6保護犬・ミックスで犬種がわからない場合
  7. 7家系で共有される情報という側面
  8. 8よくある質問
  9. 9まとめ|知っておいて、獣医師に伝えておく

「ボーダーコリー系の犬は、フィラリアの薬に注意が必要な場合がある」——そんな話を聞いたことはありませんか。これは「MDR1遺伝子変異」と呼ばれる体質に関わる話です。

先に結論をまとめます。

  • MDR1遺伝子変異は、一部の薬が脳に入り込みやすくなる体質。特定の犬種で報告が多い
  • コリー系をはじめとする牧羊犬種で、報告される割合が高いとされています
  • 大切なのは、自己判断で薬を止めることではなく、かかりつけの獣医師にこの体質の可能性を伝えておくことです

この記事では、MDR1遺伝子変異とは何か、報告の多い犬種、検査でわかること、そして備え方を、米国の獣医大学の情報にもとづいて解説します。

MDR1遺伝子変異とは|「薬の出口」がうまく働かない体質

要点: MDR1(別名ABCB1)遺伝子は、脳への薬の入り込みを制限する働きに関わっています。この遺伝子に変異があると、一部の薬が脳に入り込みやすくなり、通常より強く作用してしまうことがあるとされています。

「ボーダーコリー(シェルティ/オーストラリアンシェパード)を飼っている。フィラリアの薬で具合が悪くなる犬種があると聞いたが、うちの子は大丈夫でしょうか」——まずは、この体質そのものについて説明します。

MDR1(Multidrug Resistance 1)は、別名ABCB1とも呼ばれる遺伝子です。米国ワシントン州立大学獣医学部の解説では、この遺伝子について次のように説明されています。

Some dogs and cats have a mutation in the MDR1 (multidrug resistance 1) gene also known as the ABCB1 gene, which plays an important role in limiting drug distribution to the brain. (一部の犬や猫は、MDR1(別名ABCB1)遺伝子に変異を持っており、この遺伝子は薬が脳に入り込むのを制限するうえで重要な役割を果たしている) (出典: Washington State University College of Veterinary Medicine, PRIME・確認日 2026-09-01)

つまり、MDR1遺伝子は、いわば「脳の関所」のような働きをしています。この関所が正常に働いていれば、一部の薬は脳の中に入り込みすぎないよう制限されます。しかし、MDR1遺伝子に変異があると、この関所がうまく機能せず、通常なら脳に入り込みにくいはずの薬が、脳の中に入り込みやすくなってしまうことがあるとされています。その結果、同じ量の薬を使っても、体質を持たない犬より強く作用してしまう可能性がある——これがMDR1遺伝子変異という体質の基本的な考え方です。

報告が多い犬種|コリー系を中心とした牧羊犬種

要点: MDR1遺伝子変異は、コリーをはじめとする一部の牧羊犬種で、報告される割合が高いとされています。ミックス犬でも報告例があります。

ワシントン州立大学のPRIME(旧 Veterinary Clinical Pharmacology Laboratory)は、その犬種に属する個体全体のうち変異を持つ割合として「一部の牧羊犬種では最大75%、猫では4%がこの変異を持つ」と紹介しています(確認日 2026-09-01)。同大学が運営するWADDL(Washington Animal Disease Diagnostic Laboratory)は、これまでの検査データにもとづく犬種別の変異保有率を公開しており、その内容は次のとおりです(確認日 2026-09-01)。

犬種変異の保有率
コリー70%
オーストラリアン・シェパード50%
ミニチュア・オーストラリアン・シェパード50%
ロングヘア・ウィペット50%
シルケン・ウィンドハウンド30%
マクナブ30%
チヌーク25%
イングリッシュ・シェパード15%
シェットランド・シープドッグ(シェルティ)15%
ジャーマン・シェパード10%
ハーディング・ブリード・クロス(牧羊犬種のミックス)10%
ボーダー・コリー5%未満
オールド・イングリッシュ・シープドッグ5%
ミックス犬(牧羊犬種以外を含む一般的なミックス)5%

上記はWADDLがこれまでに検査したサンプルにもとづく参考値であり、犬種全体を正確に代表する数値ではない可能性があります(確認日 2026-09-01)。

ここで意外に思われるかもしれない点があります。「ボーダーコリー」は、コリーという名前がついていますが、WADDLの表ではその犬種の個体全体のうち変異を持つおおよその割合(Approximate Frequency)が5%未満と、むしろ低いグループに分類されています。「コリー」という名前だけで判断せず、実際に報告されている犬種・系統を確認することが大切です。ゴールデン・レトリバーやシベリアン・ハスキーなどについては、WADDLの調査時点でデータ数が十分でなく、算出できていないとされています(確認日 2026-09-01)。

遺伝のしかたと結果の読み方

要点: MDR1遺伝子変異は、両親から受け継ぐ遺伝情報の組み合わせによって決まるとされています。詳しい遺伝の基本的な仕組みは、別記事で解説しています。

MDR1遺伝子変異がどのように親から子へ受け継がれるかについての詳しい遺伝形式は、この記事の執筆時点で確認できる一次資料の中に、明確な記載を見つけられませんでした。遺伝情報が両親からそれぞれ受け継がれるという基本的な考え方については、犬の遺伝のしくみ入門で解説していますので、あわせてご覧ください。うちの子や交配相手の遺伝子検査の結果を具体的にどう読むかについては、自己判断せず、検査を実施した機関やかかりつけの獣医師に確認することをおすすめします。

検査でわかること

要点: MDR1遺伝子変異は、遺伝子検査で調べることができます。検査の費用や手順の一般的な流れは、遺伝子検査ガイドの記事で解説しています。

MDR1遺伝子変異の有無は、遺伝子検査によって調べることができます。検査の一般的な流れ・費用の目安・受ける前に知っておきたいことについては、犬の遺伝子検査ガイド|種類・費用・何がわかるかで詳しく解説しています。対応している検査会社・検査項目は機関によって異なるため、申し込み前に各社の案内を確認してください。

わかっていたら何ができるか|かかりつけの獣医さんに伝えておくという備え

要点: MDR1遺伝子変異がある、またはその可能性があるとわかった場合にできる、いちばん現実的な備えは、かかりつけの獣医師にその情報を伝えておくことです。

「MDR1の検査でキャリアという結果が出た。動物病院に行くとき、何をどう伝えておけばいいですか」——この疑問への答えが、この記事でいちばんお伝えしたいことです。

MDR1遺伝子変異の情報がわかっている場合、いちばん現実的で大切な備えは、かかりつけの動物病院に、その情報を伝えておくことです。診察や薬の処方を受ける際に、「MDR1遺伝子変異の検査を受けたことがある」「陽性(または疑いあり)という結果が出ている」と伝えておけば、獣医師はその情報を踏まえて、薬の種類や量を検討する材料にできます。

WADDLの解説では、注意が必要とされる薬の一例として、下痢止めとして使われるロペラミド(出典元の米国での商品名はImodium)が挙げられ、この体質を持つ犬では神経系の毒性を引き起こす可能性があるとされています(確認日 2026-09-01)。このほか、寄生虫を駆除する薬や、鎮静に使われる薬の一部などが、注意すべき薬として挙げられることがあります。

ただし、この記事では、特定の薬について「与えてよい」「与えてはいけない」という判断はお伝えしません。薬の使用可否・量の調整は、うちの子の体重・年齢・持病・治療の目的など、多くの要素を踏まえて、獣医師が総合的に判断すべきことだからです。フィラリア予防薬をはじめとする予防薬は、自己判断で中止せず、必ずかかりつけの獣医師と相談のうえで方針を決めてください。予防を中断すること自体が、別のリスクにつながる可能性があります。

保護犬・ミックスで犬種がわからない場合

要点: 犬種がはっきりしない場合でも、遺伝子検査でMDR1変異の有無を直接調べることができます。

「コリー系らしいミックスを保護犬で迎えたが犬種がはっきりしない。この体質かどうかを知る方法はありますか」——見た目だけで犬種を判断するのは難しいことが多いですが、MDR1遺伝子変異そのものは、犬種にかかわらず、遺伝子検査で直接調べることができます。うちの子の犬種構成そのものが気になる場合は、ミックス犬のDNA検査|犬種鑑定の調べ方で、犬種鑑定の検査についても解説しています。

家系で共有される情報という側面

要点: MDR1遺伝子変異の情報は、うちの子1頭だけでなく、血のつながった兄弟や親にも関わる可能性がある情報です。

MDR1遺伝子変異は遺伝する体質であるため、うちの子で陽性の結果が出た場合、血のつながった親や兄弟にも、同じ体質が伝わっている可能性があります。もし兄弟犬の飼い主さんとつながることができたら、この情報が、その子にとっても備えの手がかりになるかもしれません。

うちのこ家系図では、遺伝子検査の結果を家系図とあわせて記録できます。検査を受けるかどうかにかかわらず、まずは犬種や家系の情報を記録として残しておくことから始められます。無料・登録不要で試せます。

よくある質問

Q. 何歳でも検査できますか?

MDR1遺伝子変異は生まれつき持っている遺伝情報のため、多くの遺伝子検査は年齢を問わず実施できるとされています。対象年齢の詳細は、各検査会社の案内をご確認ください。

Q. どの薬が該当しますか?

報告されている薬の分類には、下痢止め(ロペラミドなど)、一部の寄生虫駆除薬、鎮静に使われる薬などがあります。ただし、個別の薬について「使ってよいか・避けるべきか」は、うちの子の状態によって異なるため、この記事ではお伝えしません。処方や使用の判断は、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。

Q. 変異があると、必ず具合が悪くなるのですか?

いいえ、そうとは限りません。MDR1遺伝子変異は「特定の薬への反応が変わる可能性がある体質」であり、変異があるからといって、日常生活に必ず問題が起こるわけではありません。関わってくるのは、特定の薬を使用する場面です。過度に心配しすぎず、かかりつけの獣医師にこの体質の可能性を伝えておくことが、いちばんの備えになります。

まとめ|知っておいて、獣医師に伝えておく

  • MDR1遺伝子変異は、一部の薬が脳に入り込みやすくなる体質
  • コリーをはじめとする一部の牧羊犬種で、報告される割合が高いとされている(ボーダーコリーは名前に反して低い部類)
  • 検査で有無を調べられる。犬種がはっきりしないミックスでも検査は可能
  • いちばん現実的な備えは、かかりつけの獣医師にこの体質の可能性を伝えておくこと
  • 特定の薬の使用可否は自己判断せず、必ず獣医師に相談する。予防薬の自己判断による中断もしない

MDR1遺伝子変異は、知っていれば備えられる体質です。うちの子の情報を、家系の記録とあわせて残しておきませんか。


本記事は参考情報です。薬の使用可否・投薬量の判断は、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。予防薬を自己判断で中止しないでください。 記事中の情報は2026年9月1日時点で米国の獣医大学の公式サイトを確認したものです。海外の情報のため、国内での対応犬種・検査体制とは異なる場合があります。

出典・参考

この記事について

内容確認日: 2026-09-01(この日時点の一次情報にもとづいています)

本記事は一般的な参考情報であり、獣医療行為やその代替ではありません。うちの子の体調で気になることがあるときは、かかりつけの獣医師にご相談ください。