遺伝のはなし 更新
犬のMDR1遺伝子変異|薬が効きすぎる体質と犬種
うちのこ家系図 編集部・更新 ・内容確認日 2026-09-01

目次
「ボーダーコリー系の犬は、薬の効き方に注意が必要な場合がある」——そんな話を聞いたことはありませんか。これは「MDR1遺伝子変異」と呼ばれる体質に関わる話です。
先に結論をまとめます。
- MDR1遺伝子変異は、一部の薬が脳に入り込みやすくなる体質。特定の犬種で報告が多い
- コリー系をはじめとする牧羊犬種で、報告される割合が高いとされています
- 大切なのは、かかりつけの獣医師にこの体質の可能性を伝えておくこと。薬をどう扱うかは獣医師が決める領域です
この記事では、MDR1遺伝子変異とは何か、報告の多い犬種、検査でわかること、そして備え方を、米国の獣医大学の情報にもとづいて解説します。
MDR1遺伝子変異とは|「薬の出口」がうまく働かない体質

要点: MDR1(別名ABCB1)遺伝子は、脳への薬の入り込みを制限する働きに関わっています。この遺伝子に変異があると、一部の薬が脳に入り込みやすくなり、通常より強く作用してしまうことがあるとされています。
「ボーダーコリー(シェルティ/オーストラリアンシェパード)を飼っている。薬で具合が悪くなる犬種があると聞いたが、うちの子は大丈夫でしょうか」——まずは、この体質そのものについて説明します。
MDR1(Multidrug Resistance 1)は、別名ABCB1とも呼ばれる遺伝子です。米国ワシントン州立大学獣医学部の解説では、この遺伝子について次のように説明されています。
Some dogs and cats have a mutation in the MDR1 (multidrug resistance 1) gene also known as the ABCB1 gene, which plays an important role in limiting drug distribution to the brain. (一部の犬や猫は、MDR1(別名ABCB1)遺伝子に変異を持っており、この遺伝子は薬が脳に入り込むのを制限するうえで重要な役割を果たしている) (出典: Washington State University College of Veterinary Medicine, PRIME・確認日 2026-09-01)
つまり、MDR1遺伝子は、いわば「脳の関所」のような働きをしています。この関所が正常に働いていれば、一部の薬は脳の中に入り込みすぎないよう制限されます。しかし、MDR1遺伝子に変異があると、この関所がうまく機能せず、通常なら脳に入り込みにくいはずの薬が、脳の中に入り込みやすくなってしまうことがあるとされています。その結果、同じ量の薬を使っても、体質を持たない犬より強く作用してしまう可能性がある——これがMDR1遺伝子変異という体質の基本的な考え方です(PRIMEの解説・確認日 2026-09-06)。
報告が多い犬種|コリー系を中心とした牧羊犬種

要点: MDR1遺伝子変異は、コリーをはじめとする一部の牧羊犬種で、報告される割合が高いとされています。ミックス犬でも見つかるとWADDLは述べています(確認日 2026-09-06)。
ワシントン州立大学のPRIME(旧 Veterinary Clinical Pharmacology Laboratory)は、一部の牧羊犬種では最大75%、猫では4%がこの変異を持つ、と紹介しています(それぞれ当該犬種・猫の個体のうちの割合で、何頭を検査したかの記載はありません)。同大学が運営するWADDL(Washington Animal Disease Diagnostic Laboratory)は、これまでの検査データにもとづく犬種別の変異保有率を公開しています。
先に、この数字の弱点をはっきりさせておきます。WSUの2つのページには、どの割合についても「何頭を検査したか」(検査頭数・N)が書かれていません。 表の列は Breed(犬種)と Approximate Frequency(おおよその頻度)の2つだけで、75%・4%という数字にも母数の記載がありません。つまり以下の数値は、分母が公開されていない参考値です。分母がわかっている数字は、このあとの節で別に紹介します。
| 犬種 | 変異の保有率(WADDLが検査した個体のうち・検査頭数の記載なし) |
|---|---|
| コリー | 70% |
| オーストラリアン・シェパード | 50% |
| ミニチュア・オーストラリアン・シェパード | 50% |
| ロングヘア・ウィペット | 50% |
| シルケン・ウィンドハウンド | 30% |
| マクナブ | 30% |
| チヌーク | 25% |
| イングリッシュ・シェパード | 15% |
| シェットランド・シープドッグ(シェルティ) | 15% |
| ジャーマン・シェパード | 10% |
| ハーディング・ブリード・クロス(牧羊犬種のミックス) | 10% |
| ボーダー・コリー | 5%未満 |
| オールド・イングリッシュ・シープドッグ | 5% |
| ミックス犬(牧羊犬種以外を含む一般的なミックス) | 5% |
上記はWADDLがこれまでに検査した個体群の中での割合(参考値)です。犬種ごとの検査頭数は同ページに記載がありません。 検査を受けた犬にも偏りがあるため、犬種全体の保有率を示す数値ではありません(確認日 2026-09-04)。なお同じ表には、ブラックマウス・カーとカロライナ・ドッグに Not enough tested to calculate(算出できるだけの検査数がない)、ゴールデン・レトリバーとシベリアン・ハスキーに Unknown(不明)と記載された行もあります。
ここで意外に思われるかもしれない点があります。「ボーダーコリー」は、コリーという名前がついていますが、WADDLの表では、検査された個体のうち変異を持つおおよその割合(Approximate Frequency)が5%未満と、むしろ低いグループに分類されています。「コリー」という名前だけで判断せず、実際に報告されている犬種・系統を確認することが大切です。ゴールデン・レトリバーやシベリアン・ハスキーなどについては、WADDLのページで Unknown(不明)と記載されています(確認日 2026-09-04)。ボーダーコリーでMDR1以外に名前が挙がる遺伝病(CL症・コリーアイ)と家系での備えは犬種の記事で、犬種そのものの性格や成り立ちは犬種ハブで扱っています。
頭数が公開されている調査|ボーダーコリーの2件
上の表には分母がありません。分母が論文に書かれている調査もあるので、参考として2件を挙げます。どちらもボーダーコリーを対象にした査読付きの論文で、調べた地域も年も違います。
- 日本(Mizukamiら, 2012年・J Vet Diagn Invest)——日本国内で無作為に集められたボーダーコリー407頭を調べたところ、変異をひとつ持つ犬(ヘテロ接合)が2頭、2つ持つ犬は0頭でした。保因者の割合は407頭のうち0.49%、変異アレル頻度は全814アレルのうち0.25%と報告されています。論文では、この2頭が同じ父犬を持っていたことも示されています。
- メキシコ西部(Galindoら, 2021年・J Vet Diagn Invest)——ボーダーコリー104頭のうち、変異をひとつ持つ犬が3頭、2つ持つ犬が2頭で、残る99頭は変異を持っていませんでした。変異を持つ犬は合わせて5頭、104頭のうち4.8%にあたります。論文はこれを、他国の報告より高い頻度だと述べています。
同じ犬種でも、地域と調べた集団によって数字はこれだけ動きます。分母のない「◯%」を犬種そのものの性質として受け取らず、どこで何頭を調べた数字なのかまで見ておくと、読み違えを避けられます。うちの子の体質を知る方法は、結局のところ検査を受けることだけです。
遺伝のしかたと結果の読み方
要点: MDR1遺伝子変異がどう受け継がれるかについて、当サイトで確認できた一次資料には明確な記載がありませんでした。遺伝の基本的な仕組みは、別記事で解説しています。
MDR1遺伝子変異がどのように親から子へ受け継がれるかについての詳しい遺伝形式は、この記事の執筆時点で確認できる一次資料の中に、明確な記載を見つけられませんでした。遺伝情報が両親からそれぞれ受け継がれるという基本的な考え方については、犬の遺伝のしくみ入門で解説していますので、あわせてご覧ください。うちの子や交配相手の遺伝子検査の結果を具体的にどう読むかについては、自己判断せず、検査を実施した機関やかかりつけの獣医師に確認することをおすすめします。
検査でわかること
要点: MDR1遺伝子変異は、遺伝子検査で調べることができます。WADDLはこの検査を提供している機関のひとつです(確認日 2026-09-06)。検査の費用や手順の一般的な流れは、遺伝子検査ガイドの記事で解説しています。
MDR1遺伝子変異の有無は、遺伝子検査によって調べることができます。WADDLは自身のページで検査の申し込み窓口を公開しており、この変異を調べる機関のひとつです(確認日 2026-09-06)。検査の一般的な流れ・費用の目安・受ける前に知っておきたいことについては、犬の遺伝子検査でわかること・種類・費用で詳しく解説しています。対応している検査会社・検査項目は機関によって異なるため、申し込み前に各社の案内を確認してください。
わかっていたら何ができるか|かかりつけの獣医さんに伝えておくという備え

要点: MDR1遺伝子変異がある、またはその可能性があるとわかった場合にできる、いちばん現実的な備えは、かかりつけの獣医師にその情報を伝えておくことです。
「MDR1の検査でキャリアという結果が出た。動物病院に行くとき、何をどう伝えておけばいいですか」——この疑問への答えが、この記事でいちばんお伝えしたいことです。
MDR1遺伝子変異の情報がわかっている場合、いちばん現実的で大切な備えは、かかりつけの動物病院に、その情報を伝えておくことです。診察や薬の処方を受ける際に、「MDR1遺伝子変異の検査を受けたことがある」「陽性(または疑いあり)という結果が出ている」と伝えておけば、獣医師はその情報を踏まえて判断できます。
なぜ「伝えておく」で止まるのか。この体質が関わってくるのは、薬を使う場面に限られるからです。WADDLは、この変異のある犬について薬ごとの推奨をまとめた一覧を公開しています(確認日 2026-09-06)。ただし、どの薬をどう扱うかは、うちの子の体重・年齢・持病・治療の目的まで見て決まることで、この記事の範囲ではありません。薬の名前も分類も、ここでは挙げません。
かわりに、飼い主の側で用意できるものがあります。検査結果の紙、あるいはその写真を、すぐ出せるところに置いておくことです。かかりつけに行くときも、旅行先で別の病院にかかるときも、その1枚があるかどうかで伝わり方が変わります。薬について気になることが出てきたときは、そのつどかかりつけの獣医師にご相談ください。
保護犬・ミックスで犬種がわからない場合

要点: 犬種がはっきりしない場合でも、遺伝子検査でMDR1変異の有無を直接調べることができます。WADDLも、この変異はミックス犬でも見つかると述べています(確認日 2026-09-06)。
「コリー系らしいミックスを保護犬で迎えたが犬種がはっきりしない。この体質かどうかを知る方法はありますか」——見た目だけで犬種を判断するのは難しいことが多いですが、MDR1遺伝子変異そのものは、犬種にかかわらず、遺伝子検査で直接調べることができます。WADDLも、この変異はミックス犬でも見つかると述べています(確認日 2026-09-06)。うちの子の犬種構成そのものが気になる場合は、ミックス犬のDNA検査|犬種鑑定の調べ方で、犬種鑑定の検査についても解説しています。
家系で共有される情報という側面

要点: MDR1遺伝子変異の情報は、うちの子1頭だけでなく、血のつながった兄弟や親にも関わる可能性がある情報です。
MDR1遺伝子変異は遺伝する体質であるため、うちの子で陽性の結果が出た場合、血のつながった親や兄弟にも、同じ体質が伝わっている可能性があります。もし兄弟犬の飼い主さんとつながることができたら、この情報が、その子にとっても備えの手がかりになるかもしれません。
うちのこ家系図では、遺伝子検査の結果を家系図とあわせて記録できます。検査を受けるかどうかにかかわらず、まずは犬種や家系の情報を記録として残しておくことから始められます。無料・登録不要で試せます。
よくある質問
Q. 何歳でも検査できますか?
MDR1遺伝子変異は、生まれつき持っている遺伝情報です。対象年齢の扱いは検査を行う機関によって異なるため、申し込み前に各社の案内をご確認ください。
Q. どの薬が該当しますか?
この記事では、薬の名前も分類も挙げません。どの薬をどう扱うかは、うちの子の状態と治療の目的によって変わり、獣医師が決める領域だからです。検査を受けたことがある・結果が出ていることを伝えたうえで、かかりつけの獣医師にご相談ください。
Q. 変異があると、必ず具合が悪くなるのですか?
いいえ、そうとは限りません。MDR1遺伝子変異は「特定の薬への反応が変わる可能性がある体質」であり、変異があるからといって、日常生活に必ず問題が起こるわけではありません。関わってくるのは、特定の薬を使用する場面です。過度に心配しすぎず、かかりつけの獣医師にこの体質の可能性を伝えておくことが、いちばんの備えになります。
まとめ|知っておいて、獣医師に伝えておく
- MDR1遺伝子変異は、一部の薬が脳に入り込みやすくなる体質
- コリーをはじめとする一部の牧羊犬種で、報告される割合が高いとされている(ボーダーコリーは名前に反して低い部類)
- 検査で有無を調べられる。犬種がはっきりしないミックスでも検査は可能
- いちばん現実的な備えは、かかりつけの獣医師にこの体質の可能性を伝えておくこと
- 薬をどう扱うかはすべて獣医師が決める領域。気になることが出てきたら、そのつどかかりつけに相談する
MDR1遺伝子変異は、知っていれば備えられる体質です。うちの子の情報を、家系の記録とあわせて残しておきませんか。
本記事は参考情報です。この記事は薬の使用可否・投薬量を示すものではありません。薬に関することは、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。 記事中の情報は2026年9月6日に米国の獣医大学の公式サイトを再確認したものです。海外の情報のため、国内での対応犬種・検査体制とは異なる場合があります。
出典・参考
- ワシントン州立大学獣医学部 個別化医療プログラム(PRIME)(Washington State University College of Veterinary Medicine, PRIME・旧 Veterinary Clinical Pharmacology Laboratory) (確認日 2026-09-06。HTMLを再取得〈HTTP 200・UA Chrome/128.0.0.0 Windows〉し、MDR1/ABCB1 の機能の一文を逐語再確認) https://prime.vetmed.wsu.edu/
- Washington Animal Disease Diagnostic Laboratory(WADDL), Washington State University「MDR1 in Dogs」 (確認日 2026-09-06。HTMLを再取得〈HTTP 200・UA Chrome/128.0.0.0 Windows〉し、表と Dogs 節の冒頭3文を逐語再確認。**犬種別・全体とも検査頭数の記載はない**) https://waddl.vetmed.wsu.edu/mdr1-in-dogs/
- Mizukami K, Chang HS, Yabuki A, Kawamichi T, Hossain MA, Rahman MM, Uddin MM, Yamato O. "Rapid genotyping assays for the 4-base pair deletion of canine MDR1/ABCB1 gene and low frequency of the mutant allele in Border Collie dogs." J Vet Diagn Invest 2012;24(1):127-134. doi:10.1177/1040638711425591 /全文 https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/1040638711425591 / https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22362942/ (確認日 2026-09-04。出版社サイトの原著全文をChromium〈headed〉でHTTP 200で取得し、分母407頭とその内訳を逐語照合) https://doi.org/10.1177/1040638711425591
- Galindo J, et al. "Novel genotyping assay for the nt230 (del4) ABCB1 gene mutation and its allele frequency in Border Collie dogs in Mexico." J Vet Diagn Invest 2021;33(6):1133-1136. doi:10.1177/10406387211033839 /全文 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8546462/ / https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34344235/ (確認日 2026-09-04。PMCの全文HTMLを取得し、104頭の内訳を逐語照合) https://doi.org/10.1177/10406387211033839
この記事について
内容確認日: 2026-09-01(最後に出典を確かめ直した日。章ごとの確認日は本文と出典の欄のとおりです)
本記事は一般的な参考情報であり、獣医療行為やその代替ではありません。うちの子の体調で気になることがあるときは、かかりつけの獣医師にご相談ください。
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