犬種と健康

ビーグルのかかりやすい病気と遺伝病|目・体のつくりと寿命・家系での備え

内容確認日 2026-09-06うちのこ家系図 読みもの

ビーグルのかかりやすい病気と遺伝病。緑内障の研究で名前が挙がる犬種と、家系での備え
目次
  1. 1この犬種で名前が挙がる体質
  2. 2目|緑内障の研究で名前が挙がってきた犬種
  3. 3体のつくりに関わる体質|マスラディン・ルーク症候群(MLS)
  4. 4代謝・血液|ピルビン酸キナーゼ欠損症
  5. 5寿命として紹介されている数字
  6. 6家系でできること
  7. 7よくある質問
  8. 8まとめ|報告の積み重ねと、家系の記録

ビーグルは、犬の緑内障の研究において、世界的に長年報告が積み重ねられてきた犬種の一つです。この記事では、目の病気・体のつくりに関わる体質・血液の体質について、学術データベースOMIAと原著論文をもとに、対象になった頭数がわかる範囲で「研究で何が報告されてきたか」に絞って整理します。

この犬種で名前が挙がる体質

要点: ビーグルは、緑内障(原発開放隅角緑内障)の研究モデルとして世界的に報告が積み重ねられてきた犬種です。このほか、ピルビン酸キナーゼ欠損症と、OMIAが「Geleophysic dysplasia, ADMATSL2-related」の名前で収載している体質(旧称:マスラディン・ルーク症候群〈MLS〉)についても、OMIAに原因遺伝子とともに登録があります。それぞれ「報告がある」という位置づけで、うちの子が発症すると決まった話ではありません。

この記事では、学術データベースOMIA(Online Mendelian Inheritance in Animals)に登録されている項目のうち、緑内障(原発開放隅角緑内障)、ピルビン酸キナーゼ欠損症、そしてOMIAが「Geleophysic dysplasia, ADMATSL2-related」という名前で収載している項目——かつて「マスラディン・ルーク症候群(MLS)」と呼ばれていた体質——の3つを取り上げます。この3つを選んだのは、いずれもOMIAに原因遺伝子とともに登録があり、原著論文までたどれるからです。OMIAの収載内容は更新され続けるため、ここに挙げたものが「この犬種で報告されているもののすべて」だとは読まないでください。犬種標準や性格・成り立ちについては群れで狩りをしてきた成り立ちと、標準が書く気質にまとめており、この記事では健康面だけを扱います。

目|緑内障の研究で名前が挙がってきた犬種

窓辺の低いベンチに前足をかけて外を見上げるトライカラーのビーグルと、後ろに立って同じほうを見る女性

要点: OMIAには「原発開放隅角緑内障(ADAMTS10関連)」という項目があり、ビーグルの名前とともに登録されています。1972年に設立された研究用のビーグルの群れが、この病気の研究の中心になってきました。遺伝形式は常染色体潜性(劣性)とされています。

学術データベースOMIAには、「原発開放隅角緑内障(Glaucoma, primary open angle, ADAMTS10-related)」という項目があり、ビーグルの名前が登録されています(OMIA)。この項目の解説によると、1972年に設立された、この病気を自然発症するビーグルの群れ(コロニー)を対象に、Gelatt(1972年・1977年)が報告を行い、Gelatt and Gum(1981年)が常染色体潜性の遺伝形式であることを示す十分な証拠を示したとされています(同上)。

その後の研究では、このコロニーに由来する「罹患犬19頭・保因犬10頭」を対象にした遺伝子解析(Kuchtey et al., 2011)によって、原因となる変異の位置が第20染色体上の領域に絞り込まれ、ADAMTS10という遺伝子のエクソン17にある変異(Gly661Arg)が原因であることが特定されました(同上)。さらに、このコロニーに属さない一般のビーグルを対象にした遺伝子解析(Kuchtey et al., 2013)でも、同じ変異がこの犬種における原発開放隅角緑内障の原因である可能性を強く支持する結果が得られたと報告されています(同上)。

なお、同じ「原発開放隅角緑内障」という名前がついていても、原因となる遺伝子は犬種によって異なります。OMIAの同項目には、柴犬とシー・ズーではADAMTS10ではなく別の遺伝子(SRBD1)が関わっているとする報告や、ノルウェジアン・エルクハウンドでは同じADAMTS10遺伝子の別の変異が報告されていることも記載されています(同上)。

体のつくりに関わる体質|マスラディン・ルーク症候群(MLS)

ラグに横向きに伏せるトライカラーのビーグルの足を手のひらにのせ、指のあいだをそっと開いて見る男性

要点: マスラディン・ルーク症候群(MLS)は、皮膚と関節にこわばりが生じるビーグル特有の遺伝性疾患として、1970年代に初めて報告されました。イギリスとオーストラリアの一部の集団を対象にした報告では、2〜3%の発生率とされています。原因はADAMTSL2という遺伝子の変異で、常染色体潜性の遺伝形式とされています。なお、この病名はOMIAで2022年に改称されており、変異の表記についても原著とOMIAで食い違いがあります。

マスラディン・ルーク症候群(Musladin-Lueke Syndrome, MLS)は、皮膚と関節にこわばりが生じる、ビーグルに特有の遺伝性疾患です。この病気を報告した原著論文(Bader et al., PLoS ONE 2010)は、「マスラディン・ルーク症候群は、皮膚と関節に広範な線維化をきたす、ビーグルの遺伝性疾患である」と定義しています(同上)。同じ論文は、イギリスとオーストラリアの一部の集団を対象にした記述として、「1970年代にビーグルで初めて報告され、イギリスおよびオーストラリアの一部の集団では2〜3%の発生率だった」と述べています(同上)。原因はADAMTSL2という遺伝子の変異で、罹患犬すべてで同じ変異が確認されたことから、常染色体潜性の遺伝形式による「創始者変異(founder mutation)」だと報告されています(同上)。この研究では、罹患犬30頭を対象に、この変異がすべての罹患犬のDNAで確認されたとされています(同上)。

この体質については、資料をまたいで確かめると2つの食い違いがあります。ひとつは病名です。学術データベースOMIAは、この項目を現在「Geleophysic dysplasia, ADMATSL2-related」という名前で収載しており、項目には「マスラディン・ルーク症候群から改称(2022年3月6日)」と記録されています(OMIA)。同じ項目は、犬に固有の呼び名として「Musladin-Lueke syndrome, Chinese beagle syndrome」を併記し、収載犬種としてビーグルを挙げています(同上)。病気の名前は後から変わることがある、ということです。うちの子の検査結果や過去の資料に古い名前が書かれていても、別の病気を指しているとはかぎりません。

もうひとつは変異の表記です。原著論文はエクソン7にある「c.660C>T」という変異だと記載しています(Bader et al., PLoS ONE 2010)。これに対してOMIAは、同じ項目のMolecular basis節で「Bader et al. 2010 の論文は、変異表記におけるcDNAの番号付けを誤っていた可能性が高い。正しい変異表記は XM_003639308.3:c.661C>T; p.Arg221Cys と読むべきである」と注記しています(OMIA)。遺伝子検査の結果や論文で見かける表記が資料によって1つずれていることがあるのは、こうした事情によります。

代謝・血液|ピルビン酸キナーゼ欠損症

ダイニングで細い綿棒をトライカラーのビーグルの口元に近づける女性と、テーブルに置かれた無地の小箱とカード

要点: ピルビン酸キナーゼ欠損症は、赤血球の中の酵素が不足することで起こる、遺伝性の貧血の体質です。学術データベースOMIAには、ビーグルで報告された原因変異が、バセンジーやウェスト・ハイランド・ホワイト・テリアとは異なる変異として登録されています。

ピルビン酸キナーゼ欠損症は、赤血球の中でエネルギーを作る酵素(ピルビン酸キナーゼ)が不足することで、赤血球の寿命が短くなり、貧血を起こす遺伝性の体質です。学術データベースOMIAは、この病気について「赤血球の寿命が著しく短くなり、重度の再生性溶血性貧血につながる」と説明しています(OMIA)。原因となる遺伝子はPKLR(R型ピルビン酸キナーゼ)で、遺伝形式は常染色体潜性とされています(同上)。

原因となる変異は犬種によって異なり、OMIAには、バセンジーでの1塩基欠失(Whitney et al., 1994)、ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリアでの6塩基挿入(Skelly et al., 1999)に加えて、「ラブラドール・レトリーバーでのナンセンス変異、パグでのミスセンス変異、そしてビーグルでのミスセンス変異(c.994G>A)」という3つの新しい原因変異が2012年の研究(Gultekin et al., 2012)で報告されたことが記載されています(同上)。この体質を含め、犬種横断的な遺伝性疾患の分類については犬の遺伝病一覧|代表的な病気と犬種別の傾向にまとめています。

寿命として紹介されている数字

要点: アニコム損保の集計(『アニコム家庭どうぶつ白書2023』2021年度データ)では、ビーグルの平均寿命は13.3歳という数字が出ています。これは一保険会社が集計した平均値であり、うちの子が何歳まで生きるかを示すものではありません。

寿命の統計にも目を向けると、アニコム損保の白書の犬種別一覧では、ビーグルの平均寿命は13.3歳とされています(アニコム損保)。この数字は、2008年4月から2022年3月までに同社の保険を契約した犬をもとに作られた生命表の、0歳時点における平均余命であり、犬種の比較にのぼるのは契約頭数の多い上位40品種で、犬種ごとの頭数までは公表されていません(同上)。保険に加入した犬という限られた集団の集計値にすぎず、寿命を保証するものでも、他の犬種と優劣を比べるためのものでもありません。個体差・飼育環境によって変わりうる目安として捉えてください。

家系でできること

低い棚の前で、無地の紙を入れたクリアファイルを書類ボックスに立てて入れる男性と、そばの床に座って見るトライカラーのビーグル

緑内障の研究モデルとしての報告も、体のつくりに関わる体質も、両親犬・兄弟犬の情報がわかっていると、うちの子を見守るときの手がかりになります。特に目の検診は、健診のたびに所見を記録しておかないと、後から思い出しにくいものです。

  • 健診で目について何か指摘を受けたことがあるか(あれば日付とともに)
  • 両親犬・兄弟犬の目や体のつくりについて、お迎え元から聞いている情報(わかる範囲で)
  • 生まれた犬舎(うちの子の実家)やお迎え元、誕生日

うちのこ家系図では、血統書があってもなくても、わかる範囲の情報から家系図を作れます。健診の結果とあわせて、動物病院での問診の際に見せられる状態にしておくと、伝え漏れを防ぐ助けになります。遺伝子検査という選択肢の一般的な考え方は犬の遺伝子検査ガイド|種類・費用・何がわかるかにまとめました。

よくある質問

Q. うちの子は緑内障だと言われました。すぐに悪くなりますか?

進行の見通しや治療の選択肢は、うちの子の状態を見ている獣医師が判断する領域です。この記事では扱いません。研究で報告されている遺伝形式や背景については、上記の「目|緑内障の研究で名前が挙がってきた犬種」をご覧ください。

Q. マスラディン・ルーク症候群は珍しい病気ですか?

原著論文では、イギリスとオーストラリアの一部の集団を対象に、2〜3%の発生率が報告されています。ただし、この数字はすべての国・すべての集団に当てはまるものではありません。

Q. 平均寿命13.3歳より短命ということはありますか?

13.3歳という数字は、一保険会社の集計における平均値です。個体差や飼育環境によって大きく変わるため、この数字を下回る・上回るということ自体に一喜一憂する必要はありません。

まとめ|報告の積み重ねと、家系の記録

  • ビーグルは、原発開放隅角緑内障の研究モデルとして、1972年設立のコロニーを中心に世界的な報告が積み重ねられてきた犬種
  • マスラディン・ルーク症候群(MLS)は、ビーグル特有の遺伝性疾患で、イギリスとオーストラリアの一部の集団を対象に、2〜3%の発生率が報告されている。OMIAはこの項目を2022年に改称しており、変異の表記も原著とOMIAで1つずれている
  • ピルビン酸キナーゼ欠損症は、犬種ごとに異なる原因変異が報告されており、ビーグルでは2012年の研究で報告された変異がある
  • 平均寿命は13.3歳という数字が報告されているが、一保険会社の契約犬・上位40品種のみを対象にした生命表の0歳時点の平均余命にすぎない
  • 健診の目の所見と、両親犬・兄弟犬の情報を家系図に残しておくことが手がかりになる

研究で積み重ねられてきた報告の多くは、特定のコロニーや集団を対象にしたものです。うちの子自身がどうかは、健診の記録と家系の情報を積み重ねていくことでしか、確かめられません。


本記事は参考情報です。この記事は病気の診断・治療方針を示すものではありません。目や体調に関する変化に気づいたら、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。 記事中のデータは2026年9月6日時点でOMIA・PLoS ONE(PMC)・アニコム損保公式サイトを確認したものです。

出典・参考

  • OMIA(Online Mendelian Inheritance in Animals・シドニー大学)「Glaucoma, primary open angle, ADAMTS10-related in Canis lupus familiaris (dog)」(OMIA:001870-9615) (確認日 2026-09-06。ページ本文を取得し、遺伝形式・コロニー設立年・原因変異・対象頭数をテキスト抽出のうえ逐語照合) https://omia.org/OMIA001870/9615/
  • OMIA「Pyruvate kinase deficiency of erythrocyte in Canis lupus familiaris (dog)」(OMIA:000844-9615) (確認日 2026-09-06。ページ本文を取得し、原因遺伝子〈PKLR〉・ビーグルでの変異〈Gultekin et al. 2012〉・臨床経過の説明をテキスト抽出のうえ逐語照合) https://omia.org/OMIA000844/9615/
  • OMIA「Geleophysic dysplasia, ADMATSL2-related in Canis lupus familiaris (dog)」(OMIA:001509-9615) (確認日 2026-09-07。本記事の執筆者がChrome系UAでHTTP 200を取得しテキスト抽出のうえ逐語照合。現行の項目名・改称の記録〈Renamed from Musladin-Lueke syndrome [3/6/2022]〉・種別名〈Musladin-Lueke syndrome, Chinese beagle syndrome〉・収載犬種〈Beagle〉・遺伝形式・Molecular basis節の変異表記に関する注記を確認。B-50-1/B-50-2の是正で追加) https://omia.org/OMIA001509/9615/
  • Bader HL, et al.「An ADAMTSL2 Founder Mutation Causes Musladin-Lueke Syndrome, a Heritable Disorder of Beagle Dogs, Featuring Stiff Skin and Joint Contractures」 PLoS ONE. 2010;5(9):e12817. (確認日 2026-09-06。PMC全文をHTTP 200で取得し、Abstract・Introductionの記述〈初報告年・British/Australianでの発生率2-3%・遺伝形式・対象頭数〉をテキスト抽出のうえ逐語照合。筆頭著者はHannah L Bader) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2941456/
  • アニコム損害保険『アニコム家庭どうぶつ白書2023』第2部 第4章「寿命と死亡」表2-4-3「犬種別の平均寿命(2021年度)」 (確認日 2026-09-06/2026-09-07再取得。PDF原本をPyMuPDFでテキスト抽出し逐語照合。ビーグル/中型/13.3。算出方法の注記「0歳時点での平均余命を平均寿命とした」「犬は契約頭数の上位40品種を…対象に」も逐語確認。犬種別の集計頭数は白書に掲載がない。犬全体との対比は本文に書かない=K20-B/K21-Bの裁定に従う) https://www.anicom-page.com/hakusho/book/pdf/book_202312_2_4.pdf

この記事について

内容確認日: 2026-09-06(この日時点の一次情報にもとづいています)

本記事は一般的な参考情報であり、獣医療行為やその代替ではありません。うちの子の体調で気になることがあるときは、かかりつけの獣医師にご相談ください。