猫の進行性網膜萎縮症|複数ある型と、名前が挙がる猫種
内容確認日 2026-09-07・うちのこ家系図 読みもの

進行性網膜萎縮症(PRA)という同じ名前は、犬の記事でも見かけるかもしれません。ですが猫の場合は、原因も型も犬とは別です。この記事では、猫のPRAがどう定義されているか、複数ある型の違い、名前が挙がる猫種、検査が猫種ごとに分かれている理由を、一次資料にもとづいて整理します。
猫のPRAとは何か

要点: 公益社団法人埼玉県獣医師会は、進行性網膜萎縮症を「網膜が変性、萎縮することによって視力の低下が起こり、その後も徐々に進行して失明にいたる病気」と定義しています。同じ解説は「猫ではまれな病気とされています」とも記しています。
公益社団法人埼玉県獣医師会の解説は、進行性網膜萎縮症について「眼の奥にある網膜が変性、萎縮することによって視力の低下が起こり、その後も徐々に進行して失明にいたる病気」と定義しています(埼玉県獣医師会)。同じ解説は「猫ではまれな病気とされています」とも記しており、これは犬とは異なる猫側の一次の記述です。犬側で報告されている型と家系での見つけ方は犬の進行性網膜萎縮症|犬種別・家系で早期発見にまとめています。
同じ解説には、栄養性の網膜変性や感染性の網膜炎でも同じように見える症状が起こることがあるとも記されています(同上)。この記事では、見分け方や診断の手順には立ち入りません。
なお、この解説が「猫の代表的な遺伝性疾患」として取り上げているのは5つの病気で、末尾には、その5つはすべて遺伝子検査が利用できるという趣旨の注記が添えられています(同上)。進行性網膜萎縮症も、その5つのうちの1つです。
型が複数あるということ
要点: 学術データベースOMIAには、猫の網膜変性に関わる項目が、少なくとも4件、別々のエントリとして登録されています。もっとも広く知られているのはアビシニアン・ソマリなどで報告されているrdAc型(CEP290遺伝子)で、同じ猫種にはRdy型(CRX遺伝子)という別の型もあります。
学術データベースOMIA(シドニー大学が運営する遺伝性疾患のデータベース)には、猫の網膜変性に関わる項目が、少なくとも4件、別々のエントリとして登録されています。CEP290遺伝子に関わる「網膜変性II」(2007年)、CRX遺伝子に関わる「網膜萎縮ー杆体錐体異形成」(2010年)、KIF3B遺伝子に関わる進行性の網膜萎縮(2020年)、そしてベンガルの早発型網膜異形成(原因遺伝子は未特定)です(OMIA)。「型が複数ある」というのは当社の整理ではなく、公的なデータベースが別々の番号を与えているという事実です。
もっとも広く知られているのは、アビシニアン・ソマリなどで報告されているrdAc型(CEP290遺伝子の変異)です。生まれたときは視力が正常で、時間をかけてゆっくりと失明に至る、晩発型の常染色体潜性遺伝とされています(UC Davis Veterinary Genetics Laboratory)。同じアビシニアン・ソマリには、rdAcとは別の遺伝子(CRX)に関わるRdy型という早発型もあります(同上)。この2つは、原因遺伝子も遺伝形式も違います。遺伝形式については、UC DavisのVGLが「常染色体優性形質として遺伝する」としている一方、OMIAは「常染色体不完全顕性」としており、記述が完全には一致していません。どちらか一方だけに寄せず、資料によって書き方が違うという事実として押さえておくとよいでしょう(UC Davis VGL・OMIA)。
呼び名そのものが資料によって変わることもあります。OMIAはCEP290に関わるエントリに、種固有の名称として「Late-onset photoreceptor degeneration」(晩発型の光受容器変性)を、種固有の記号として「rdAc; PRA-CEP290」を併記しています(OMIA:001244-9685)。資料によって呼び名が違っていても、同じ型を指している場合があるということです。
このほか、ベンガルには、この品種に固有と見られる原因変異による型があり(UC Davis VGL)、ペルシャには、ヒトのレーベル先天黒内障(Leber's congenital amaurosis)に相当するとされる重い型(AIPL1遺伝子)があります(同上)。検査対象となる猫種のリストは、型ごとにまったく違う顔ぶれになっています。
名前が挙がる猫種

要点: 埼玉県獣医師会の解説で、進行性網膜萎縮症の「好発品種」として名前が挙がっているのは11の猫種です(本記事が列挙を数えた数)。この欄は名前を並べたもので、番号は振られておらず、報告の多い順に並べたものでもありません。
埼玉県獣医師会の解説には、進行性網膜萎縮症の好発品種として、アビシニアン、ソマリ、ペルシャ、シャム、ベンガル、ラグドール、メインクーン、オシキャット、ノルウェージャンフォレストキャット、オリエンタルショートヘアー、コーニッシュレックスの名前が挙がっています(埼玉県獣医師会)。数えると11の猫種になりますが、原文に「11」という数字が書かれているわけではありません(本記事が列挙を数えた数)。この欄に番号は振られておらず、報告の多い順に並べたものでもありません。毛の1本の中に縞が入る柄のことは、その猫種の記事で扱っています。団体が世代を規則で定めている猫種のことは、別の記事にまとめました。
この資料そのものは、国内の大手ペット損害保険会社が2019年に発表した人気猫種ランキングベスト10を出発点にして、そこから代表的な遺伝性疾患を選んで解説する、という組み立てになっています(同上)。ただし、ランキングが出発点になっているのは「どの病気を取り上げるか」の部分であって、病気ごとの好発品種の欄は、その10種とは別に作られています(埼玉県獣医師会)。実際、上に並べた11の猫種のうち7つ(アビシニアン、ソマリ、ペルシャ、シャム、オシキャット、オリエンタルショートヘアー、コーニッシュレックス)は、そのランキングの10種には入っていません(本記事が両方の一覧を突き合わせて数えた数)。ここに名前が無い猫種で報告が無い、という意味でもありません。
この体質の広がりについては、原著論文が、材料と方法の節で43の猫種と1つの非純血集団のDNA試料を用いたとしたうえで、要旨で、調べた43猫種のうち16猫種(37%)でこの変異(CEP290・rdAc)が観察されたと報告しています(Menotti-Raymond et al., 2010、16/43=37.2%)。この2つの記述は同じ論文の別々の節にあるもので、ひと続きの一文ではありません。シャム系の集団で対立遺伝子頻度が高いとする記載も同じ論文にありますが、その数値は分子・分母が明確に示されていないため、この記事では使用していません。
検査は猫種ごとに、別メニュー

要点: 検査の対象となる猫種のリストは、型によってまったく違います。UC Davis VGLがrdAc型の「検査に適した猫種」として並べているのは21猫種、Rdy型はアビシニアンとソマリの2猫種です(いずれも本記事が列挙を数えた数)。
検査の対象となる猫種のリストは、型によってまったく違います。UC Davis VGLがrdAc型について「検査に適した猫種」として並べているのは、アビシニアンからトンキニーズまでの21猫種です。Rdy型はアビシニアンとソマリの2猫種のみ、ベンガルの型は4猫種、ペルシャ由来の型はペルシャ系の複数猫種が対象とされています(UC Davis VGL)。これらの猫種数は、いずれも本記事が列挙を数えたもので、原文に猫種の数そのものは書かれていません。
もう一つ、リストの読み方で押さえておきたいことがあります。UC Davis VGLはrdAc型のページで、検査に適した猫種を並べたうえで、別枠で「この遺伝子変異は、アメリカンショートヘアー、ヨーロピアンショートヘアー、ドンスコイ、ハバナブラウン、ハイランダー、メインクーン、ピクシーボブ、スコティッシュフォールド、スフィンクス、テネシーレックスでも検出されている」と記しています(同上。10猫種というのは本記事が数えた数です)。つまり「検査メニューに載っている猫種」と「変異が見つかったことのある猫種」は、同じ顔ぶれではありません。うちの子の猫種が検査メニューに載っていないことは、その猫種で報告が無いことと同じ意味ではない、ということです。
同じページの解説段落でも、UC Davis VGLは、アビシニアン・ソマリ・オシキャットに加えて、43の猫種を対象とした調査によってCEP290の変異が他の多くの猫種にも存在することが示された、と記しています(同上)。原著論文と検査機関の記述が、同じ方向を向いているということです。
この記事は、どんな検査が用意されているかまでを扱います。検査を受けるべきかどうかの考え方は、猫の遺伝子検査で何がわかるのかで扱っています。
家系でできること

型が複数あるということも、名前が挙がる猫種があるということも、両親猫・兄弟猫の情報がわかっていると、うちの子を見守るときの手がかりになります。うちのこ家系図では、血統書の有無にかかわらず、親猫の情報や検査の記録を書き残せます。
よくある質問
Q. 猫のPRAは犬と同じ病気ですか?
犬にも同じ名前で呼ばれる目の病気がありますが、猫の場合はまれな病気とされており、原因となる遺伝子や型も犬とは別です。犬側で報告されている型については犬の進行性網膜萎縮症で扱っています。
Q. 検査はどの猫にも同じものが使えますか?
いいえ。型によって原因遺伝子が違うため、検査の対象となる猫種のリストも型ごとに異なります。また、検査に適した猫種として並んでいる顔ぶれと、変異が検出されたことのある猫種の顔ぶれも一致しません。うちの子の猫種に合った検査については、猫の遺伝子検査ガイドで確認できます。
まとめ|複数ある型と、名前が挙がる猫種
- 埼玉県獣医師会は、猫のPRAを「網膜が変性・萎縮し視力低下が進行して失明にいたる病気」と定義し、「猫ではまれな病気」ともしている
- 学術データベースOMIAには、猫の網膜変性に関わる項目が少なくとも4件、別々のエントリとして登録されている
- アビシニアン・ソマリにはrdAc型(CEP290)とRdy型(CRX)という原因遺伝子の異なる2つの型があり、OMIAは同じ型に「rdAc」「PRA-CEP290」という複数の記号を併記している
- 好発品種の欄には11の猫種の名前が挙がる(本記事が数えた数)が、この欄に番号は振られておらず、報告の多い順に並べたものでもない。人気猫種ランキングが使われているのは、どの病気を解説するかを選ぶ出発点としてである
- 検査対象となる猫種のリストは型ごとにまったく違い、さらにUC Davis VGLはrdAc型について、検査に適した猫種とは別枠で変異が検出された猫種を10挙げている
型によって顔ぶれが違うということを知っておくだけでも、検査や記録を考えるときの手がかりになります。
本記事は参考情報です。猫種の傾向は個体差があり、すべての子に当てはまるものではありません。健康に関する記述は診断・治療を目的とするものではなく、気になる症状は獣医師にご相談ください。 記事中のデータは2026年9月7日時点で埼玉県獣医師会・UC Davis Veterinary Genetics Laboratory・OMIA・PubMed(PMC)の各資料を確認したものです。
出典・参考
- 公益社団法人埼玉県獣医師会「猫の遺伝性疾患について」 (確認日 2026-09-07。◇進行性網膜萎縮症の解説段落・好発品種欄・《人気猫種ランキングベスト10と起こりやすい遺伝性疾患》の節・末尾の注記を、Chrome UAでHTTP 200を取得して照合) https://www.saitama-vma.org/topics/%E7%8C%AB%E3%81%AE%E9%81%BA%E4%BC%9D%E6%80%A7%E7%96%BE%E6%82%A3%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/
- UC Davis Veterinary Genetics Laboratory "Progressive Retinal Atrophy (PRA rdAc) (Abyssinian)" (確認日 2026-09-07。概要ブロック・Additional Details段落・Breeds appropriate for testing欄を確認) https://vgl.ucdavis.edu/test/pra-rdac
- UC Davis Veterinary Genetics Laboratory "Progressive Retinal Atrophy (PRA Rdy) (Abyssinian)" (確認日 2026-09-07) https://vgl.ucdavis.edu/test/pra-rdy
- UC Davis Veterinary Genetics Laboratory "Progressive Retinal Atrophy (PRA-b) (Bengal)" (確認日 2026-09-07。403が返る場合はRefererヘッダを付けて再試行し200を確認) https://vgl.ucdavis.edu/test/pra-bengal
- UC Davis Veterinary Genetics Laboratory "Progressive Retinal Atrophy (PRA-pd) (Persian)" (確認日 2026-09-07。同上) https://vgl.ucdavis.edu/test/pra-pd
- OMIA(University of Sydney)"Retinal degeneration II in Felis catus" (確認日 2026-09-07。Species-specific name・Species-specific symbol欄を確認) https://omia.org/OMIA001244/9685/
- OMIA(University of Sydney)"Retinal atrophy - Rod-cone dysplasia, CRX related in Felis catus" (確認日 2026-09-07。Mode of inheritance欄を確認) https://omia.org/OMIA000881/9685/
- OMIA(University of Sydney)"Retinal atrophy, progressive, KIF3B-related in Felis catus" (確認日 2026-09-07) https://omia.org/OMIA002267/9685/
- OMIA(University of Sydney)"Retinal dystrophy, early onset, Bengal in Felis catus" (確認日 2026-09-07) https://omia.org/OMIA001613/9685/
- Menotti-Raymond M, et al. "Widespread retinal degenerative disease mutation (rdAc) discovered among a large number of popular cat breeds." Vet J. 2010;186(1):32-38. PubMed /全文 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6984347/ (確認日 2026-09-07。AbstractとMaterials and methodsを別々に確認し16/43=37%を検算。∼33%は対立遺伝子頻度で分母が明示されないため未使用) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19747862/
この記事について
内容確認日: 2026-09-07(この日時点の一次情報にもとづいています)
本記事は一般的な参考情報であり、獣医療行為やその代替ではありません。うちの子の体調で気になることがあるときは、かかりつけの獣医師にご相談ください。
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